占いなんて大嫌いだ!

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「おはよう、不破」 「………おはよう」 朝の教室、自分の席について早々、星野から挨拶された。昨日あれだけ邪険にしたのにめげないやつだ。 挨拶は大事だから返すけど。 「あの、不破」 「生年月日、出生地、出生時間、好きな色、動物なんて教えないし、手相も見せないからな!」 「じゃあ普段何枕で寝てる?東?西?」 「いや知らねえよ!!んなもん気にして寝ねぇよ!」 「おすすめは北だよ」 「あっそう!」 たく、くだらない。枕の方向でなにか変えられるなら、今頃誰もが人生薔薇色だっての! 「…今日は、大丈夫だった?」 「は?」 「犬とか、噛まれてない…?」 「…そっ、れは大丈夫だけど…」 カラスにはつつかれたけど…。 「よかった…」 「….っ」 なんでよかったって思うんだよ。 俺のこと占いのおもちゃにしたいだけだろ。 「…お前なんでそんなに占い好きなの?」 「…」 聞いてしまった。 自分から占いの話を振ってしまった! 蕁麻疹でそう!! 「俺は逆に、どうして不破がそんなに占いが嫌いなのか気になる」 「な、俺が聞いてんの!てか俺のことはどうでもいいだろ!」 「不破が教えてくれないなら、俺も教えない」 「はあ!?」 なにちょっと、頬膨らませてんの!? なにちょっと、眉8の字にしてんの!? なにちょっと、そっぽ向いてんの!? 可愛くねえんだよ!!!!!!!! お前なんかより、ヨッシーやシャドウ先輩の方が何億倍と可愛いんだからな!!? 「……………」 「………っ!!」 「う、占いって…裏切るじゃん…」 「!」 「あなたはきっと運命の人に出会えるでしょうとか、あなたはきっと仕事がうまくいくでしょうとか、ぬか喜びさせて…まともな判断能力をその人から奪うじゃん…。しかも時には高い金払って…。」 「うちの母さん、占いが好きで、占いで言われた人と結婚して、でももう離婚してて…。占いなんて嘘ばっかり。詐欺なんだよ結局」 あれ、なんでこんな家庭のことまで話してるんだろう。 なんだか胸の奥がザワザワとものすごく気持ち悪い。 星野の方が向けない。 さっきの発言取り消したい。 どうしよう。 「…確かに。嘘ばっかりだね」 「…!」 「でもさ、占いって嘘でもいいって俺は思うんだよ」 「もちろん、根拠のある占いもあるよ。ちゃんと。さっきの枕の話とか、あれは磁場とかが関係してくるから」 「でもそんな科学的にどうだとか、根拠はだとかは占いには必要はないんだと思うんだよね」 「人って感情的な生き物だから、そう、例えば今君に好きな人がいるとする」 星野は話す。話し始める。 「その人のことが好きでたまらないと、きっとたくさんの"知りたい"って欲望が溢れてくるんだ。その欲望は抑えが効かなくて、自分の胸をいっぱいいっぱいに圧迫していくんだよ」 あの人の好きなタイプは? あの人に今好きな人はいる? あの人のことを好きな人は他にもいる? あの人は自分のことをどう思ってる? あの人と自分は結ばれる?幸せになれる? 「こんな知らないことを、知ることもできないことをたった一人で抱えてぐるぐるぐる考え続かなきゃいけないってどう思う?死にたくならない?どうして自分がこんなに悩まなきゃいけないんだろうって。誰か助けてって。誰か教えてって」 「そんな時、助けてくれるのが占いなんだよ」 「結果が嘘でもいいんだよ。その通りにならなくてもいいんだよ。みんなわかってる。その時救われて、心が軽くなって、身体の自由がきいてさ、動けるようになったら上手くいく時だってあるし。」 「占いっていうのは、薬だよ。痛み止めの」 「そこが占いのある意味、いいところなんだと思うよ。俺は。だから不破も、そんな毛嫌いしないで、少しは占いのいいところも見てあげ…」 「言い訳じゃん」 「現実逃避じゃん、自分の不幸を誰かのせいにしたいだけじゃん。薬だとか綺麗事いって嘘を正当化して、結局他人をさらに不幸してる。毒だよ」 「俺は、今まで嫌なことたくさんあった。不幸だと思った。なんで自分ばっかりって思うこともある。でも誰かのせいや、ましてや運なんてあるかどうかもはわからないもののせいには絶対しない」 「不幸に必然的な理由があるんだよ」 「……………………」 長い間、沈黙が続いた後、 俺はもう一度言った。 「占いなんて大嫌いだ」
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