迷鬼 10

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 空に銀狐の叫ぶ声が響いた。  塀のうえから飛び降り、泣きそうな顔でこちらへ駆けてくる。その白い切り髪がまぶしいほど赤く染まっているのを見て、ひなは思わずあっと声を上げそうになった。塀から顔を覗かせた朝日が、ほんの一時のうちに庭全体を鮮やかな色に染め変えていた。  ──きれい。  痛いほど美しい光景である。  石を踏む音に振り向けば、そこに黒埜が立っている。  黒埜はまぶしさに顔を歪めながら、されどいつもと変わらぬ黒い眼で、ひなを見下ろしていた。  そして一言、呟く。 「立てるか?」 「……はい」  ひなはこくりとうなずいた。黒埜の差し出した手につかまり、よろけながらも立ち上がる。  そうだ。  こうやって──人は立ち上がる。  何度だって。  立ち上がることができるのだ。  ひなはそう思って、急にまた涙がこみあげるのを感じた。 「おひなちゃーーーん!!」  そこにもっと涙で顔をぐしゃぐしゃにした銀狐が駆けてくるまで、もういくらもかからなかった。
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