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呪われた花嫁 2
――あれ?
空を見上げ、破れた着物の袖で目尻をぬぐっていると、丘の上に見慣れないものがあるのに気がついた。駕籠だ。袖をまくりあげた体格のいい男たちが、黒塗りの立派な駕籠を背負っている。お役人様が乗っているのだろうか。でも、こんなところを通るなんて珍しい。
そう思いながら見上げていると、急に駕籠が止まって戸が開いた。
「わぁ……」
思わず声がこぼれる。
中から颯爽と現れたのは、絵巻物にでも出てきそうな美しい男だった。
さらさらと風に揺れる漆黒の髪。都女のように白い肌。きれいな鼻筋に切れ長の目。紅の内衣に墨色の着物を重ねた着流し姿で、藤色の帯を緩く結んでいる。
きっと山二つ向こうの都からやって来たのだろう。
袴をつけていないので、お武家様ではないようだ。どこぞの店の若旦那か、はたまた豪農の跡目か。
ひながぽぉっと見惚れていると、男が「そこの」といきなり声を発した。しんと涼やかで、それでいて一本芯の通った凛々しい声だ。
「わ、私……でしょうか」
「他に誰が?」
男は怪訝な目つきでひなを見やった。
慌てて二、三歩坂を上って木立の間を抜け、ひざまずいて深く頭を下げる。
「も、申し訳ありません……!」
「お前、どこの村の者だ」
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