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やがて年頃になると、村の誰もが予想していた通り、あまたの縁談が降ってきた。ずいぶん遠くの里からも申し入れがあったらしい。
相手が決まったのは十四のとき。村一番の豪農で、十八になる跡取り息子だ。可愛い娘を嫁にやるなら、せめて近くに留めておきたい。そんな親心が決め手になった。
ひな自身は夫婦がどんなものか、まだよくわかっていなかったが、きれいな花嫁衣装をあつらえたり、大勢の人が祝いに来たりするので、どうやらとてもよいことらしいと一人で納得していた。村人たちも、ひなが故郷に留まることを喜んだ。よい顔をしなかったのは幼馴染の平太だけだ。
「あすこの息子は性悪だ。今まで何人も村娘に手をつけているし、下男の扱いもひどい。あんなとこへ嫁に行ったら、きっと大変な目に遭うぞ」
だから行くな、と平太はぶっきらぼうに言った。
ひなはそんな幼馴染を見てころころ笑う。
「平太ったら、私がお嫁に行くのがさびしいんでしょう」
すると「違やい!」と叫んで行ってしまう。その後ろ姿がなんだかくすぐったくて、ひなはまたころころと笑った。
けれども。
縁談は、突然白紙になった。
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