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ノーラといっしょにすごせる
「だれかさんとは大違いだ。う……ん。だれかさんのは『ザ・男』っぽい短い髪しか見たことがないが、長いのは想像すら出来ない。だってほら、レディだったら髪が風にサラサラ流れる、というのが容易に想像出来る。しかし、だれかさんの場合はまったく思い浮かばない。脳が拒否しているのか、あるいは想像するだけムダだということだろう」
「いやいやコリン。長髪にしたら、まんざらでもないかもしれぬぞ。その黒色の長髪で顔を隠すのだ。夜中、庭の木の下に立ったら、腰を抜かすほど驚くこと間違いなしだ」
「ちょちょちょ、ちょっと待ってよ。どうしてわたしがそんなホラーチックなことをしないといけないわけ? という以前に、無理矢理想像していただかなくて結構です。髪は、伸ばすつもりはいっさいありませんから。この方がラクですし、レディがみんな長い髪という世間一般の風潮は好きではありません」
「おいおい、ミヨ。そんなにムキになることはないだろう? たしかに、きみの言う通りだ。街のレディにしろ貴族のレディにしろ、みんな同じだ。同じ流行を追い、極めようとするからね。きみのようにやっかみから反骨精神を丸出しにしている方が、すごく個性的だ。それはそれで、めちゃくちゃ面白いだろう」
コリンが言ってくれたけど、よくよく考えたら微妙な内容だわ。
「そろそろ真面目な話をしよう」
バーナードは、ちょうどいいタイミングで手を叩いて全員の注意をひいた。
「ノーラ」
わたしの隣に座っている彼女の前に、コリンが両膝を折って目線を合わせた。
「きみの叔父さん叔母さんたちは、事情があって警察に連れて行かれた。従姉妹たちは、おそらく学校を卒業するまでは寄宿舎ですごすことになる。どうかな? きみさえよければここですごさないか? 昨夜、きみに話した通り、きみはいままで得られなかったものをこれから手に入れることが出来る。きみにはその資格があるからね。まずは家族だ。きみは敏いからすでに気がついていると思うが、おれたちはまだ家族ではない。いまのところは、だけど。ほんとうの意味での家族になれるのは、まだ先のことだ。きみもおれたちといっしょに家族になれるようがんばってみないか? もちろん、それはきみの自由意志だ。けっして強制するわけではない。もしも家に戻りたい、そこですごしたいというのならそれを尊重する。レッドメイン男爵邸をきれいにし、使用人や警備員を雇い、何不自由なくすごせるようにする。おれたちもここから様子を見守る。その選択肢もあるということを覚えておいてくれ。いずれにせよ、いますぐには屋敷に戻れない。ここでしばらくすごしてもらう。いますぐ答えが欲しいわけではない。おれたちとすごしてから決めてくれればいい。是非とも前向きに検討してもらいたい」
コリンは、やさしく微笑んだ。
そんな微笑み、わたしにもずっと見せてもらいたいものよね。
大人なわたしは、そんなやっかむようなことは思わない。
そのとき、ノーラがわたしの隣でコクリと小さく頷いた。
少なくとも、彼女は検討してくれる。
それがうれしかった。
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