ノーラとヘンリー

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ノーラとヘンリー

 彼女には、客間の一つを使ってもらうことにした。わたしの隣の部屋である。  夫であるはずのコリンが主寝室を使い、わたしはその続きの間を使っている。ノーラの部屋は、そのわたしの部屋の隣というわけ。 「ノーラ。いまさらだけど、はじめまして。ミヨ・アッシュフィールドよ。今夜はもう遅いから寝た方がいいわね。明日、話をしましょう」  客間にある長椅子に座ったまま彼女に声をかけると、彼女は無表情のままこちらを見ている。  そういえば、一度も口をきいていないわね。それから、ずっと無表情だわ。  気にかかっていることである。  そのとき、控えめに扉が叩かれた。 「どうぞ」  返事をすると、少しだけ扉が開かれた。すると、ヘンリーの可愛らしい顔がのぞきこんできた。 「おばさ……、あ、いえ、母上。彼女、大丈夫?」  ヘンリーはわたしのことをおばさんと言いかけ、演じていることを思い出したらしい。  慌てて言い直した。  そんな彼がちょっとだけ可愛いと思った。 「ええ、ヘンリー。ノーラは大丈夫よ。いまからもう休むところ。話なら、明日するといいわ。さあ、入ってノーラにおやすみの挨拶をなさい」  ヘンリーが隣家でノーラをかばったのは、ほんとうに驚きだった。  彼の意外な一面だった。  ほんとうに男らしかった。まだほんの子どもなのに、いざとなったら頼りがいのある男になるのね。  つくづく感心した。  願わくば、わたしに対してもそうあって欲しいわね。  つくづく願った。  彼は、気恥ずかしそうに入って来ると、部屋の入口あたりからノーラにおやすみの挨拶をした。  が、ノーラはやはり無表情のままである。  ヘンリーは挨拶したことで満足したのか、そんな彼女の無表情さにショックを受けた風もなく、部屋から出て行った。  ってヘンリー、わたしには挨拶なし? 一応、継母よ。  その問いは、心の中でするにとどめた。 「ノーラ、わたしも行くわね。なにかあったら、隣がわたしの部屋だから遠慮なく起こしてね。入ってきて、ぶん殴ってくれればいいわ。それでも起きるかどうかは神のみぞ知る、だけど」  冗談を言ったつもりだった。  彼女は、眉間に皺をよせている。  もしかして、面白くなかった?  彼女、笑い話の基準が厳しいのかしらね? 「じゃあ、おやすみ」  立ち上がると、扉の方へ歩こうとしてバランスを崩してしまった。  とっさに長椅子の背をつかもうとしたけれど、つかみそこねた。  その瞬間、なにかに支えられた。  ハッと横を見ると、ノーラが体全体でわたしを受け止めてくれている。 「あ、ありがとう、ノーラ。助かったわ。気をつけなきゃ、よね?」  彼女は、部屋の外までわたしを支え続けてくれた。
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