アンプ

　ぐうの音もでない正論に圧倒され、男は「こんな店、二度とくるか！」と捨て台詞を残して去っていった。

　昨今ではクレーム対応にアンドロイドを導入する企業が増えてきている。その理由は、先ほどの客が言ったように人間には心があり、アンドロイドにはないからだ。いちゃもんに近いクレームを浴びせかけられれば、人間はストレスを感じ心を磨耗する。だからアンドロイドなのだ。

　そして最近では、アンプによってネットでの誹謗中傷が取り締まられているため、ストレスを発散できない輩が直接『人間』を傷付けてやろうと、クレームを量産するようになった。彼らの目的は客という立場を利用し、クレーム対応にあたった人間に罵詈雑言を浴びせかけることである。だから、先ほどの客も人間にこだわったのだ。

「安藤さん、お疲れさまです。今日ってメンテナンスの日でしたよね？　あとは、わたしがやりますので大丈夫ですよ」
「ありがとうございます、吉住さん。それでは、お先に失礼します」

　ぺこりと頭をさげるアンドロイド、通称『安藤』がサービスカウンターから去っていく。その後ろ姿を見送り人間の吉住(よしずみ)咲子(さきこ)は、やれやれとため息をついた。