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(やはりこれが始まってしまった・・・!)
菅原は震える思いがした。そうなると次に考えられるのが自衛隊内での発病だったからだ。誰が突然発症するか分からない。他の部隊では既に黄色のエリアに入っている隊員も出始めているという。それはこの任務でスパーズに感染したからだと思われていた。
しかし菅原自身は絶対に発症しない確固たる自信があった。何故ならばスパーズワクチンを打っていないからだ。それは菅原がこれまでの体験を経て出した結論だった。誰も信じないが、それはもう関係なかった。
(隊員のほとんどが接種した自衛隊は近いうちに壊滅する。次の行動へ早くに移らないと大騒動に巻き込まれて脱出もできなくなる・・・!)
菅原は次に打つ手を考え始めていた。そして何とかしてここを脱出して群馬にいる家族の元へ帰る算段を計画していた。
「ご遺体はこの後に自衛隊の方で火葬いたします。感染の恐れがありますので触らないようにお願いいたします」
「何を言ってるの? お葬式はどうするのよ!」
「現在地域の火葬場は処理が間に合わない状況です。葬儀屋も営業しておりません。これにつきましては各自治体の方で通達が回っているはずです」
「知らないわ、そんなの! 回覧板も来ないわよ!」
「そうですか・・・」
徐々に音を立てて社会システムの崩壊が始まっていた。これはどうしたらいいのか? あれはどうなっているのか? という疑問や不安について明確な答えを示さずに無策で政府がロックダウンを強行した弊害は、やがて大混乱を生むことになって行く。
アパートの女性は血にまみれたドアに気が付いていない。呆然とする女性を背に遺体を運ぶ菅原と部下は、その遺体を通りに寝かせて無線での連絡を試みた。
「こちら警備4班 菅原です。遺体回収を願います」
『見つかりましたか? 何体でしょうか?』
「1体ですが、逃亡患者とは別の赤です」
『え? そっちも一般の住人の赤でしょうか?』
「ハイ、一般の住人です。“そっちも”とは?」
『捜索班の連絡はそのような報告が続いてます』
「えぇ? パッチを付けて通りに寝かせておきます」
『了解。回収します』
菅原は遺体にGPSパッチを貼り付けた。病院にいる回収班がそれを追って回収に来る手筈のようだ。
「菅原さん、聞きましたか? 別の班もこんな状況みたいですよ」
「・・・ヤバイな。始まったな」
菅原は本当のパニックの始まりを確信した。
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