1・岡 美希

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1・岡 美希

 大学の養成課程を修了、救急救命士国家試験に合格し、地元である埼玉県深谷(ふかや)市の消防官になった美希。所属は深谷消防署第三中隊の救急係。第三中隊の職員は20名だがその中で女性職員は美希一人だけである。  かねてから直接人を助ける仕事に就きたいという希望を持っていた美希はその夢を見事に実現した。看護師への道を考えたこともあったが、運動神経が優れ、体力に自信があったこともあり、自分に向いているのは消防士であると路線を変更した。その中でも直接命を救う救命士を希望したのだった。男勝りな性格もあり、男性の中で行動することに抵抗が無かったのも理由だ。  配属されて2年目のまだ新人と呼ばれる立場であったが、この年に学生時代からの恋人であった拓海と結婚した。美希は24歳、拓海は2歳年上の26歳であり、近年の傾向から見れば早婚であった。美希としては25歳までに結婚をしたい願望があり、また年を増すごとに激務となっていく仕事上、婚期を逃してしまいかねない不安から思い切って結婚に踏み切ったこともあった。そんな美希の人生は順風満帆な滑り出しだったと言えるだろう。 『救急指令、救急指令』  8時45分からの交代後間もなく救急車の出動要請が入った。3人のチームで発車した美希。24時間勤務がここ最近はきつく感じていた。休む間も無いからだ。 「場所は玉野町4丁目」 「傷病者は68歳男性。心筋梗塞と思われる症状」 「本人意識あり、心肺停止には及んでいない状況」  次々に入ってくる情報を耳に車内で準備を進めて行く美希。ヘルメットに保護シールド、マスク、水色の防護服とゴム手袋を身に着けたこの1年前からの感染対策だ。
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