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1・潜入
「走れ! 後ろを見るな! 走るんだ!」
菅原の怒鳴り声を背に美希は走り続けた。何も言わず、何も考えることもせず、只々走り続けた。建物と建物のコンクリート壁に挟まれた通路に二人の息遣いと足音が反響する。
〝ダダン! ダダダーン!〟
美希の背後から菅原の放ったライフル音が響く。
「あのドアだ! 中に入るんだ!」
美希は無機質な外壁の奥に見えて来た鉄扉を目指した。闇の中で外灯を灯していたそのドアはこの長かった疾走のゴールに思えた。
「ハッ、ハッ、鍵は開いているの?!」
「分からない!」
「ハッ、ハッ、閉まってたら?!」
「また走れ! この建物の周りを走れ!」
「ハッ、ハッ、ハッ、とにかくこの中に入ればいいのね?!」
「そういうことだ!」
手を伸ばすと美希は素早くドアノブを捻る。施錠されていた。
「ダメだった!!」
「どけ!」
そう言って菅原は思いついたように美希を後ろに払うとドアノブの根元に銃口を向けた。美希はそれを見ると同時に耳を塞ぐ。
〝ダダン! ダン! ダン!〟
撃ち放つと吹き飛んだドアノブの穴に指を入れて引っ張る菅原。ドアが開いた。
「入れ! 中を確認するんだ!」
と菅原は走って来た通路に銃口を向ける。美希は菅原が指す闇の先に目を向けながらも建物内に飛び込んだ。菅原もそれに続く。
「とりあえず大丈夫みたい!」
「ドアを閉めて! あのロッカーで塞ぐ!」
菅原は目に飛び込んで来たスチールロッカーに駆け寄ると全力でそれを肩で押し始める。
「こんな時、日本のドアは外開きだからタチが悪い!」
「そうかぁ、アメリカの映画では外から蹴っ飛ばすと中に開くよね? 開き勝手が外国と違うんだぁ」
そんな会話をするほど気持ちに余裕が出てきた。
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