第1章−10 異世界の勇者は魔王です(10)

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第1章−10 異世界の勇者は魔王です(10)

(勇者はそこまで急いで、この討伐を終わらせたかったのか……)  その理由が少し気になるが、それはまた後でわかるだろう。  しかし……今回も、女性陣の瞳孔がハートになっている。  なんともお盛んなことで……。  勇者の本命が誰なのか、ということを知るのも、討伐された後の楽しみのひとつである。  やっぱり、今回も安定の聖女サマなのだろうか?  雛鳥の刷込み現象よろしく、異世界に召喚されて最初に出会うヒロインは、やっぱり有利だろう。  ヒロインブーストがかかっているからな。  ひとりにしぼらず、うやむやのまま、全員と仲良くよろしくやってしまうハーレム勇者も多いんだよな……。  ハーレムは男のロマンなのだろう。  オレにはよくわからないけどね……。  今回の勇者は、オレを倒した後、どういう選択をするのかな?  今からとても楽しみだね。  ビキニアーマーの女戦士が、勇ましい声を張りあげながら剣を振りかぶった。 「邪魔だ!」  魔剣をだすまでもなく、オレは素手で戦士の攻撃を張り倒す。  インドア派をなめるなよ!  戦士が勢いよく吹っ飛び、派手な音を立てて、柱にめり込んだ。  勇者は大事だが、その他大勢は興味ない。というより、オレと勇者の逢瀬を邪魔する鬱陶しいオプションだ。  ちまちま飛んでくる矢を魔法で丁寧に弾き飛ばしながら、オレは小さく舌打ちする。  風魔法で一気に振り払いたいところだが、万が一にでも流れ矢が勇者に刺さりでもしたら大変だ。  おそらく、今回の勇者は、同行者のサポートを鬱陶しく思っているだろう。  連携が全くできていないし、むしろ、よかれと思ってやっているオレに対する牽制が、勇者の行動を阻む要因になっている。  正直、聖女の『女神の加護』だけあればいいんだ。  初期の頃の、勇者対魔王の一騎打ちがなつかしい……。  あの頃は、邪魔するヤツはだれひとりいなくて、勇者との対決だけに集中できた。  オレは一瞬だけ、遠くへと意識を飛ばし、昔を懐かしんだ。 「くそっ!」 (勇者くん、カワイイ顔をして、そんな言葉を使っちゃだめだよ……)  女戦士が負傷したことで、勇者の怒りがさらに強まったようである。  対魔王用として創造された聖剣を構えた勇者が、猛然と駆け寄ってくる。  仲間が傷つき、怒りに燃えた瞳がオレに向けられ、勇者の視線と魔王の視線が絡み合う。  オレにだけ注がれる、強い想いを秘めた強烈な眼差し。 (最高だ……!)  もう、それだけで、オレは逝ってしまいそうである。 「でやぁ――っ!」  勇者が飛んだ。  なんか、掛け声が多い勇者だ。  勇者補正と、聖女(正確には女神ミスティアナ)の加護が重なり、宙を舞う姿は、翼でも生えているかのように、とても軽やかだ。  その凛とした美しい姿に、おもわず見惚れてしまう。  落下の勢いを使い、勇者はオレに剣を突き立てようとする。  オレが勇者に討伐されることによって、この世界の秩序は保たれる。  だが、一撃であっさり殺られるのは、味気ない。  これから数百年の間、オレは肉体を失い、魂の一欠片になって、復活するまでひとりで退屈な時間を過ごすのだ。  だから、もっと楽しんでから逝きたいものだ。  今のこの瞬間が楽しくて、自然と笑みが浮かんでくる。  手を掲げて勇者の剣を振り払おうとした瞬間、いきなり、オレの足元に魔法陣が広がった。 「え……?」 (な、なんだ?)  魔法陣はオレを中心として、ぐるぐると模様を描きながら広がっていく。  勇者の驚いたような顔が目に映る。 「な、な、なんだああああっつ!」  直後、オレは眩しい光の柱に飲み込まれていた。
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