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第1章−12 異世界の勇者は魔王です(12)
キラキラと輝く眩しい金髪。深く、吸い込まれそうな翠の瞳。整った鼻梁。背は高く、手足はすらりと長い。
武芸を嗜んでいるのか、引き締まった体躯は、鋼のようにしなやかで、程よい厚みがある。無駄な肉は一切ついていない。
翠の瞳には知性のきらめきが宿っており、何気ないひとつ、ひとつの所作には品があった。
青年は青いマントを羽織り、腰のベルトには宝玉が散りばめられた細身の剣を吊り下げている。
纏っている衣装は、白と金を基調とした綺羅びやかなもので、ひと目で高価なものだとわかる。それを引き立てる豪奢な飾緒や宝玉がとても美しい。
容姿も装いもすごく豪華で眩しいんだが、それだけではない。滲み出ているオーラがあきらかに他の奴らと違っている。
違うというレベルではなく、抜きん出ているというのだろう。
『勇者』も存在感のある存在だが、この青年もそれと同等、いや、それ以上の存在感があった。
オレも思わず心を奪われ、魅入ってしまったほどである。
こういう奴がオレの側近にいれば、目の保養になって、小難しい政務も、なにかと忙しい日常も少しは楽しくなるかもしれない。
次に復活するときは、側近の採用条件に容姿も加えようと、オレは密かに誓った。
目の前の若者は、魔王のオレと並んでも遜色ない出で立ちだった。
ということは、王族か、それに近しい身分なんだろうね。
他のヒトたちの反応を観察するに、この部屋の中では、この金髪の若者が一番偉い存在のようだった。
若者はオレの眼前まで近づくと、いきなり跪いた。
そして、すらりとした美しい両手で、オレの右手をすくいあげる。
美しい顔をあげ、じっと、オレの顔を見ている。
深い翠色の瞳が、食い入るように、オレを見つめていた。
オレの全身に、説明し難い衝撃が走った。
心臓が口から飛び出るかと思ったくらい、びくりと飛び跳ねる。
胸が苦しいくらいに高鳴っていた。
勇者と目があったときと同じくらいドキドキしてしまう。
今日のオレの心拍数は、大変なことになっている。
頭の中がぼ――っとして、若者に触れられている右手が妙に熱い。
胸が苦しくて、全身に電撃が走ったような痺れがあるのだが、嫌な気持ちはなかった。
キラキラと眩しい青年は、オレを見つめながらにっこりと極上の微笑みを浮かべた。
その微笑みは、花が咲き誇るような、可憐で、艶やかなものだった。あまりの眩しさに直視できない。
コイツは本当に、人間なのか?
男でこれは……。
あきらかに反則だろう。
自分の魅力をわかった上でやっているというのなら、相当なワルに違いない。
「はじめまして。勇者様。我が名は、エルドリア・リュールシュタイン。リュールシュタイン王国の王太子です。病身の父王に代わり、お願い申し上げます。どうか、どうか……勇者様のお力をもって、この世界を魔王の手から救ってください」
長いセリフを一気に言い切ると、リュールシュタイン王国の王太子は、オレの手にそっと口づけを落とす。
「ふっにぁ…………!」
い、色々な驚きのため、なんか、変な、悲鳴のような……妙に上ずった声が、オレの口から漏れた。
しかもなぜか、まだ、エルドリア王太子はオレの手をぎゅっと握ったまま、離そうともしない。
なにやら、期待の籠もった熱い目で、オレを見上げている。
鎮まれ! オレの心臓!
「い、い……いや。オレが魔王だけど?」
乱れる呼吸を落ち着かせながら、なんとか、それだけは言う。
「いえ、あなた様は、我々が女神のお力をお借りして、異世界より召喚した勇者様です」
「へっ? 異世界だとおっ!」
オレの意識が一気に覚醒する。
「だ、だったら、ココは勇者がいた方の世界か! ニホンかっ! トーキョーかっ! アキバは近いのか!」
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