第1章−13 異世界の勇者は魔王です(13)

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第1章−13 異世界の勇者は魔王です(13)

「……? ニホン? トーキョー? そのような場所に心当たりはございません」 「…………」 「勇者様、ここはリュールシュタイン王国の王城にある儀式の間です」  オレの過剰反応に若干とまどいながらも、エルドリア王太子は、笑みを崩さない。  で、なぜか、手も握ったままだ。  オレが逃げ出すとでも思ったのか、さらに指を絡めるように強く握られてしまう。  これはちょっと……困ったことになったよね? 「勇者様、落ち着いてください。よろしければ、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」  跪いたまま、手はオレの手に絡めたまま、エルドリア王太子はオレの名前を聞いてくる。 「いや、だから、オレは魔王だっていうの!」 「……ま、マオ・ウ様ですね。素晴らしいお名前ですね」  再びにっこりと笑われるが、違う!  わざとなのか? 「違う、オレは魔王だ! マ・オ・ウ!」 「マオ・ウゥゥ……様ですか?」  エルドリア王太子は、こてり、と首を傾ける。  ……わざとではなさそうだ。  その仕草が、意外にもあどけなく目に映って、なんだか……胸のあたりがキュンとくる。 (な、なんだ? この『キュン』っていうのは……)  さきほどから心臓がバクバクとうるさい。困った……。  気づけは、オレの手はエルドリア王太子の胸に引き寄せられている。  オレを引き寄せるだけでなく、自分の方からも、ぐいぐいオレに近寄ってくる。 (な、なんなんだ? この王太子は!)  オレは焦って身を引くが、後退したぶん、王太子がオレのほうににじり寄ってくる。 (近い! 近い! これ以上、近寄るな!)  王太子のパーソナルスペースって、どうなってんだ! 「違う! 何度言ったらわかるんだ! オレは勇者じゃなくて、勇者に倒される魔王なんだよ!」  じりじりと距離を寄せてくる王太子を懸命に押しのけながら、オレは叫ぶ。  まさか、異世界ということで、オレの言葉が通じていないってことはないだろう。 「御冗談を。勇者様」  あ、ちゃんと言葉が通じている。  よかった……。  いや、安心するのはそこじゃない。 「こんなときに、冗談なんか言ってられるか! オレは魔王だ! オレの勇者はどこだ!」  まだ接待の途中……いや、接待は始まったばかりなのだ。  勇者放置なんて、ありえない。 「なにをおっしゃっているのですか? マオ様が勇者です。マオ様は魔王などではありません。女神の加護を受け、世界を救ってくださる勇者様が、マオ様です」 「女神って、ミスティアナか!」  オレは、悲鳴に近い叫び声をあげていた。  舌をだして、「テへっ」とかなんとか言いながら、コツンと拳骨を額に当てている女神が脳裏に浮かんだ。 (あの……ポンコツ女神がっ!)  心のなかで吠えまくる。  今回は……えらく手の込んだことをしてくれたもんだ。  今にはじまったことではないが、ミスティアナは何を考えているのか……よくわからない。  いや、確か、そのときの流行を追っているとか言っていたか……。  ただ、枕が変わっただけで眠れなくなる、デリケートなオレとしては、毎回、毎回、変わり種をぶっこんでくる女神様には、正直なところ辟易している。  特にヘーセー勇者は悲惨である。  リーマンとか、一度死んで転生した勇者とか、精神年齢が高い勇者が混じるようになってきた。  見た目は子どもだけど、中身はオッサンはまだいい。許せる。  だが、勇者だと思って丁寧に対応したら、そいつはクズ――ハズレ――で、一緒に召喚されたダークホースに、後ろからサクッとされるのだけは勘弁してほしい展開だった。  アレは消化不良で、全くもって不愉快極まりない。  ヘーセー勇者はオレの予測の斜め上ばかりをいってくれて、対応に困る。  オレだけでなく、選んだ女神自身が、勇者に翻弄されてるんだから、呆れ果てる。  勇者設定は変わったものをチョイスしてくるが、不思議なことに展開はほぼテンプレ通りだ。  まあ、ゴールが『魔王であるオレを倒す』というのが変わらない限り、テンプレ展開が続くのだろう。  テンプレ展開に飽きているといったのは、オレだ。  刺激が欲しいと言ったのもオレだ。  だが、ここまで捻くれた展開にしてくれ、とは頼んでいない。  なんか、仕事が雑すぎないか? (オレが対処しきれないようなことをやらかしてくれて、どうするんだ!)  オレが欲しいのは、あくまでも『刺激』なのだ。  トラブルを増やせとは、ひとことも言ってない。  これが、ミスティアナのいう『刺激』なのか! 『アバンチュール』なのか! 「ミ、ミス……ティア……ナ様? という女神様は存じ上げません。我が国を導き給う女神様は、至高神アナスティミア様です」 (誰ソレ……)  そんな女神、オレは知らない……。
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