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第1章−14 異世界の勇者は魔王です(14)
「マオ様は突然の勇者召喚に戸惑われていらっしゃるご様子ですね」
「そ、そ。そのようですなぁ……」
エルドリア王太子が後ろを向き、長いひげを生やした神官風のおじいちゃんに語りかける。
(オイコラ! オレの話を聞け!)
っていうか、オレの呼び名は、マオ様確定なのか!
それに、いつまで王太子はオレの手を握っているつもりなんだ!
ご高齢な神官のおじいちゃんの手には、杖代わりの錫杖なのか、錫杖代わりの杖なのか……が握られている。
手が震えているようで、錫杖の先端の飾りがふるふると小刻みに揺れている。
チョロイン聖女が手にしていた杖とよく似ているが、注意してみると微妙に違うデザインの杖だ。
おじいちゃんはシワシワのヨボヨボで、生きているのが奇跡のようだった。
勇者召喚よりも、このおじいちゃんがこうして生きていることの方が、奇跡ではなかろうか。
この部屋の中に老人は他にもいたが、このおじいちゃんが最高齢だろう。
ちょっと突いたら、ぽっくりと逝ってしまいそうである。
取り扱い注意だ。
きっと、このおじいちゃん神官が、主軸となって、この魔法陣を発動させたのだろう。
おじいちゃんの気配と、魔法陣に残っている魔力の気配が一致する。
きっと、この魔法陣を発動させるために、寿命を削り……かなりの無理をしたに違いない。
なのに、やって来たのは勇者じゃなくて、勇者に倒される宿命の魔王とは……魔王のオレでも同情してしまう。
このおじいちゃんは、というか、王太子以外の人々は、勇者召喚が失敗したのでは? と思い始めているようだった。
オレを見る沢山の目が、期待のこもったキラキラしたものから、不審人物を眺めるような冷ややかなものにかわりつつある。
その不穏な空気が漂うなか、王太子はゆっくりと立ち上がった。
目がくらむほどの、眩しいまでの微笑みをオレに向ける。
「いつまでもここで話し込んでいてもしかたがありません。マオ様、どうぞこちらへ」
王太子が動き出す。
と、人垣がざっと左右に別れ、部屋の出入り口までの道ができあがる。
「…………」
「さ、マオ様、こちらですよ」
王太子に握られた手を引っ張られる形で、オレはなすがなされるままに、ずるずるとひきずられていく。
柔らかな笑みと言葉に反して、なかなか強引な王太子様である。
かくして、オレは、異世界から召喚された勇者との対決途中で、異世界に召喚され、異世界の王太子に拉致されることとなったのである。
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