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第1章−3 異世界の勇者は魔王です(3)
なんと、オレの部下たちは『勇者様御一行』に見事なまでに、それこそ、復活できないくらい、完膚なきまでに抹殺駆逐されてしまっていたのだ。
久々に、オレの部下の死亡率がやばいくらいに高い。ガチでやばい。
非戦闘員は早々に避難させたが、全員が尻尾をまいて逃げるわけにはいかない。
側近や幹部クラスの連中は、勇者様御一行の道中の障害として、いつもどおり対峙させた。
そして、あっさりと勇者に退治されてしまったんだ……。
部下たちには、
「無理せず軽く勇者の相手をして、適当なところで死んだフリしてやりすごせ」
と命令していたんだけど、一撃即死では、死んだフリをする暇もないよな……。
今回の勇者、いつにも増して強すぎないか?
女神がチート設定を間違えたんだろうか?
あのポンコツ女神ならありそう……いや、やりそうだ。
というわけで、生き残って辺境の地に逃れている部下の数が、過去最低という……ちょっぴり、魔王側は深刻な状況にある。
オレが討伐され、オレが復活するまでの間、魔族をまとめる幹部たちの安否がまだだれひとり確認されていないんだ……。
暗部も勇者に全滅させられたからな。安否確認できる人材が残っていないんだよ……。
オレは心の中でフルフルと震えながら、目の前にいる甘いマスクの勇者を見つめる。
(優しそうな顔をしているのになあ……)
やっぱり、勇者は見た目に騙されたらダメだ。
(女神と勇者は信じちゃだめだ)
と、毎回、同じことを、オレは痛感するのだった。
立ち止まった勇者の背後に、冒険者風の格好をした女性たちが、わらわらと駆け寄ってくる。
「勇者ってば、歩くの早いよおっ」
「ちょ、ちょっと、もうちょっと、警戒しないと……」
「勇者。これ以上、魔王に近づいてはだめヨ!」
勇者の旅の仲間――チョロイン――たちが口々に警告を発するが、可愛らしい見た目に反して、三十六番目の勇者はマイペースというか、俺様的な性格のようである。
彼女たちの警告はスルー。聞く耳持たずといったかんじだ。表情が全く変わらない。
いや、なんか、いま「チッ」とかいう、勇者の舌打ちが聞こえたような気がしたんですが……?
チョロインも勇者の行動に慌てているようだが、それ以上に、オレは勇者の行動の早さに慌てふためいていた。
ふつうは、もっと、こう、ジリジリとした緊迫感というものがあって、だんだんと盛り上がっていくものだが、今回は、淡々とコトがすすんでいる。いや、すすみすぎているんだ!
正直なところ……想像していた以上に早い勇者の到着に、オレはとても焦っていた。
あまりの急展開に、心の準備がまだできていなかったりする。
だって、これから討伐されるわけだし……。
枕が変わっただけで眠れない繊細な神経の持ち主であるオレは、扉が開いた瞬間から動揺しまくりなのだが、それは心の奥底にそっとしまいこむ。
(ポーカーフェイス、ポーカーフェイス……)
と心のなかで、オレはなんども唱える。
魔王の狼狽を勇者に悟られるわけにはいかないから、表情には一切ださないよう、オレは必死にがんばる。
ホストは常に、堂々とあるべき存在だからな。
遠方からはるばる召喚された勇者に粗相があってはならない。
(なんていったって、ここが、ストーリーで一番盛り上がるところだからな!)
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