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第1章−4 異世界の勇者は魔王です(4)
召喚された勇者の最後の試練。
『魔王との最終決戦』
オレの総力をもってして、華々しく演出する必要がある。
最初の頃は、慣れなくて舌を咬んだり、徹夜までしてせっかく考えたセリフをド忘れしてしまい、仕方なくアドリブで乗り切ったりと……。最初から最後まで、冷や冷やとトラブルの連続だった。
しかし!
三十六回目の勇者対決となると、オレもそれなりにずいぶん慣れてきた……と思う。うん、そうであってほしいな。経験はちゃんと蓄積されているからな。
それなりに余裕もでてきて、多少のトラブルにはビクともしないくらいにはなってきたよ。無駄に、三十六回も復活していないからね。
今では、勇者との定番なやりとりを、それなりに楽しめるくらいには、心臓に毛が生えてきたよ。
魔王の正装、いや、盛装にも長時間耐えうるだけの気力と根性もみなぎっているから大丈夫。
今回も、完璧に勇者に討伐される魔王を演じてみせようじゃないか!
オレの中にやる気がみなぎってくる。
目に思いっきり力をこめて、勇者をにらみつける。
「オマエが魔王なのか?」
「そうだ!」
「本当に魔王なのか?」
「そうだ。我が魔王だ! この世界を支配する唯一、絶対の存在だ!」
「本当に魔王?」
(しつこい!)
なんだか妙に疑り深い勇者だ。
しかも、言葉に棘がある。
オレが影武者だと思っているのだろう。
昔、何回か「残念でした。さっき倒したのは、影武者でした」とか、「真の敵はわたしだ! 驚いたか!」という展開をやってみたが、討伐に時間がかかるだけなので、めんどくさくなってやめた。
勇者に「あ――やっぱり、そうだったのか。まだ戦いがつづくのかよ……」っていう表情をされては、どうしてもヘコんでしまう。
心がポキッと音をたてて折れちゃうんだよ。
まあ、今回はそんなサプライズを用意するヒマもなく、勇者はやってきてしまったんだけどね。
可愛い勇者の眉が、不快げに歪んだ。
「なんで、オマエが魔王なんかやってるんだよ!」
勇者が怒っている。
(あ……コレは……アレだな……)
勇者がイメージしていた魔王と、オレの容姿に齟齬があり、とまどっているんだ。と、オレはひとりで納得する。
オレは自慢じゃないが、民からも、部下からも愛される、カッコいい人型タイプの魔王様だ。
ごっつい角や、ちょろっとした尻尾などはついていない。コウモリのような翼もなければ、殺人的なゴッツイ爪もない。硬い鱗もないよ。
見えない部分や、秘めたる力、備わっているスキルなどは、人間とはあきらかにデキが違うけど、外見はたいして人間とかわらないんだ。
というか、見た目だけは、ほぼ人間といってもいいだろうね。
よく人間と間違えられるんだ。
エルフほどじゃないけど、ちょっと耳が人間と比べてとがってる? とか、獣人ほどじゃないけど、犬歯がちょっと鋭そう? とか、虹彩とか瞳孔がなんかヒトと違う? ……という程度。
庶民の服に着替えて、人間の街をウロウロしても、魔王どころか、魔族だと全くバレずに、人間に溶け込めるくらい、外面は人間っぽい形状の魔王なんだ。
見た目は人間だけど、最終形態とか、ダメージが一定レベルに達したらドラゴンにヘンゲするとかいうびっくり設定もないよ。
ほんとうに見た目がただカッコイイというだけの魔王だ。
道中で勇者たちの障害として立ちはだかった部下たちの方が、何十倍も魔王らしいとも……いえなくもないけどね。
(三十六番目の勇者は、凶悪なゴッツイ魔王との対決を夢見ていたんだな――)
「え? こんなひょろっとしたヤツが魔王なの?」
という声が聞こえてきそうだ。
オレはインドア派だからね。武闘派ではないから、見た目は優男にみえるんだろう。
実際に、過去の勇者たちに何度も言われたし……ね。ちょっぴり傷つくけど、そういう言葉は慣れてるよ。
あまりにも人間に近い容姿に、抵抗を感じる勇者もいたな。魔獣っぽい魔王の方が、よかったのかもしれない。
今回は慌ててしまって、仮面をかぶるのを忘れてしまったんだ。
今から顔を隠しても遅いだろう……。
三十六番目の勇者には、悪いことをしてしまった。
これは次回への反省点として、心のノートにメモしておこう。
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