第1章−8 異世界の勇者は魔王です(8)

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第1章−8 異世界の勇者は魔王です(8)

 (なるほど……。原因はこれか!)  勇者はオレの派手すぎる衣装が気に入らなかったんだな。  もう少し、コーディネート……勇者の嗜好に気を配るべきだった。  といっても、勇者の情報を集めにむかわせた暗部の連中は、ことごとく勇者に殺られ、帰ってきた者は、残念ながら誰ひとりいなかったんだよ……。  それに、勇者のリサーチを完了する前に、勇者がココまでやってきたからね……。  勇者の嗜好なんてわかるわけがないよね……。 (もう、これは、事故だ! 残念な事故だ! 不幸な事故として処理しよう。そうするべきだ!)  反省点は色々あるけれど、もう、賽は投げられたからな。  これから、勇者と魔王の最後の戦いが始まる!  いや、もう始まっているんだ!  ここはベテランがしっかりとリードしなければならない。 (……仕切り直そう!)  勇者の心臓に悪い『睨みつける』攻撃は『無視する』で懸命に防御する。  しかし、残念なことに、オレの雄姿を見てくれるギャラリーは、目の前の『勇者様御一行』しかいないんだよね。  ちょっと寂しいな。  さらに付け加えるなら、ちょっと恥ずかしいし、ちょっと虚しい……。  自分のホームだと思っていた場所が、実は、アウェイだと気づいた瞬間の驚愕に近いものがあるよね。  でも、オレはラスボスだからしかたがない。部下たちの屍の上にたって、最後に出現するのが、ラスボスのラスボスたる所以だ。  部下が生き残っていたら、ラスボスにはなれない。  オレは魔王。  ラスボスなのだ。  今、ここで、がんばらないと、ラスボスとしての存在意味がない!  アイデンティティー 「俺は……俺は……世界の平和……を……取り戻す!」  勇者の定番の科白だ。  (いい。すごくいい……)  何度聞いても聞き飽きない。  ……オレも、一度くらいは、そっち側の決め台詞を言ってみたい。  いつ聞いても、新鮮で、オレの心をドキドキさせる。背中がゾクゾクして、身体の芯が熱くなる。  三十六回体験しても、これは飽きない。  オレはこれからどんなふうに勇者に討伐されるのか……アレコレ考えただけでもゾクゾク、ワクワクしてくる。  部下たちをためらうことなく、サクサク殺しまくった勇者だ。ラストのオレは、今までにない、残虐非道な方法で討伐されるのだろう。 (これが、刺激か……)  あまりにもストレートすぎて、もうすこしヒネリが欲しいところだったが、あの女神にそこまで求めるのは無理難題だったんだろう。  でもやっぱり、ちょっと、目新しい刺激に期待してもいいだろうか?  興奮のあまり頬が紅潮し、オレの赤い目がさらに赤く染まるのが感じられた。  勇者のセリフを聞くために、オレは生きているといってもいいかもしれない。  これからのことを想像して、恍惚とした笑みが漏れる。  興奮しすぎて唇が乾いてしまい、思わず舌なめずりした。  部下たちに、それだけは、恥ずかしいので、やめてください、と言われていたのだが、やってしまった……。  オレの魔王めいた残虐な笑みに驚いたのか、勇者が身体を震わせながら、二、三歩後退する。 (いけない、いけない)  近頃のチート勇者は、ハートの方が脆いようで、心理的な攻撃にはあまり耐性がないようである。  いわゆる、打たれ弱い? 傾向にある。  異世界にいきなり召喚されて、問答無用で魔王討伐に駆り出されたのだ。  右も左もわからない状態で、文化も文明も違う。  いろいろとストレスも溜まっているだろう。気の毒なことだ。  女神ミスティアナもひどいことをする。  オレが威圧的に振る舞って、萎縮させては勇者が気の毒だ。もてなす側としては、失格行為だよね。  魔王として、勇者をしっかりもてなし、誠心誠意対応しよう。  勇者には魔王討伐を存分に満喫していただき、満足して、未練など残さずに、「自分はよいことをしたんだ」と思ってもらって、すぱっと自分の世界に帰って欲しいものだ。  利用者様満足度ヒャクパーセント、評価は常にイツツボシを目指すオレとしては、魔王として、ここが頑張りどころである。
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