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第1章−9 異世界の勇者は魔王です(9)
改めて、謁見の間にたどり着いた勇者を、オレは上から目線で見下ろした。
互いの顔がはっきりとわかるところまで近づいたとはいえ、玉座までには段差があり、戦闘を開始するには、もう少し距離を縮める必要がある。
勇者はずっと、オレを睨みつづけている。
視線の鋭さには驚いたけど、基本は可愛い顔なので、慣れてしまえば、大丈夫だ。
怖くない。怖くない。怖くない……。
うん、ちっとも怖くない。
一生懸命、背伸びをして、威嚇して、頑張ろうとしている姿がとても、カワイイ勇者だ。
……と、思うようにすれば、ちっとも怖くない。
こういう頑張っている子には好感が持てる。めいっぱい、応援したくなるし、ネチネチと虐めたくもなる。
オレは頑張っている子には、とことん弱いのだ。
この健気な勇者のためにも、魔王としての役割をきっちり、ぬかりなく、つつがなく、務めさせてもらおうではないか……。
聖女らしき聖職者が、手にしていた錫杖『聖女の杖』を天に掲げ、高らかに宣言する。
「レイナ様に聖なる女神ミスティアナ様の加護を!」
(あ、三十六番目の勇者の名前はレイナというのか……)
薄暗い謁見の間が、ぺかーっとした光にあふれかえる。
今回は勇者の名前を調べるヒマすらなかったんだな……と、神々しい光を眺めながら、オレはぼんやりとそんなことを考えていた。
あの光が女神の加護で、それをまとうことができるのは勇者だけだ。
その光の力を借りて、勇者は魔王であるオレを討伐することができるのだ。
それにしても、聖女って、聖職者だよな? 女神様に仕える、聖なる乙女だよな?
聖職者というわりには、キラキラしたビミョーに露出している……光の加減で肌が透けて見えそうな薄――い衣をまとった、チョロインが、手にしていた『聖女の杖』をさらに高く掲げる。
聖女の杖は持ち回りらしく、毎回、同じものである。
ちょ、ちょ……そんなに思いっきりバンザイしたら、色々なところが見えちゃったりするんだけど、大丈夫なのか?
それに、見て欲しい勇者は、全く聖女の方を見ていないぞ?
今回の聖女は、王女様と兼任しているのだろうか。
それとも、平民から見いだされた女の子なのだろうか。
エロフな魔法使いの……これまたチョロインが、最終魔法を唱え始める。衣装は魔法使いなのに、肌色部分が無意味に多い。
長めのスカートには、ばっちりスリットがはいっていて、絶妙なぐあいでスラリとした生足がのぞいている。
魔法使いが唱えているその呪文は、オレには全く効果がない。
しかし、困ったことに威力だけは無駄にある。
それが炸裂したら城の修繕が大変になるから、できれば辞めてほしいんだけどなぁ……。
新調した内装はぐちゃぐちゃになるだろう。
グラマラスな弓使いが、次々と放つ、魔力を帯びた矢が、飛んでいる虫のように鬱陶しい。
これまたチョロインだろう。こっちはハーフエルフだ。
だから、ちょっと、なんでみんな、そんなに露出度が高い装備なんだ?
寒くないのか?
恥ずかしくはないのか?
「うおおおおおっ!」
ビキニアーマーをまとったチョロイン戦士が、最初の一撃とばかりに猛烈な勢いで、オレの元に迫ってくる。
生傷が絶えない前衛職業なのに、そんなに肌を露出して、どうしようというのだろうか?
(わけがわからない……)
今回は勇者ひとりに、女性四人という構成だった。
勇者の旅の仲間としては、最低限ともいえる人数構成だろう。
少数精鋭というか、旅の途中で増える仲間たち……というイベントもすっとばして、三十六番目の勇者はここまでやってきたにちがいない。
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