侍女ハルラールは労災認定してもらいたい

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「ごめん、私が迷惑かけたからかな。こういうのってストレスが原因だって聞くし」  私の後頭部の満月を見ながら、サヴィトリ様が申し訳なさそうに仰いました。 「まさか! 決してサヴィトリ様のせいではありません」  私は全力で首を横に振りました。  ストレスの原因はわかっています。間違いなく、上司の補佐官カイラシュ様です。  サヴィトリ様を溺愛しすぎているカイラシュ様は、私に毎日「本日のサヴィトリ様レポート」の提出を命じました。端的に言うとマジでこれがばり面倒くさい。口調も思わず素に戻ってしまいます。文字数は一万字以上、内容が気に入らないと赤を入れられ、修正して再提出しなければなりません。  他にもサヴィトリ様が殿方と少しお会いするだけでもネチネチ言うわ、「最悪亡き者にしても構いません」とか言って暗器と毒物の扱い方を私に教えこもうとするし。  侍女と言ってもただの行儀見習いで、福利厚生がしっかりしている上にお給金がたんまりもらえる、という甘い触れこみ乗ってしまった私が悪いのでしょうか。  ……そうだ、福利厚生と言えば労災保険があったはず。大切な髪を失ったのです。このまま泣き寝入りするわけにはいきません。もらう権利があるなら、きっちりいただいておかなくては。 「サヴィトリ様、円形脱毛症は労災おりますか?」 「……え?」  サヴィトリ様は聞きなれない言葉に目をしばたたきます。この反応は何も知らないときのものです。  私は労働条件通知書の内容を思い出します。確かそこに相談窓口について書かれていたような。……まぁ、今日の仕事が終わってから確認すればすむことですね。
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