〇桜川病院・階段踊り場

3/3
前へ
/437ページ
次へ
「しっかりしろ! セッシの先が歪んだら、縫合糸(ほうごうし)が掴めなくなるだろう」 なんだこいつ、私ではなくセッシの心配をしているのか! 苛立つ心をグッと堪える。 「すみません。あとで全部確認しておきます」 彼は残りのセッシを拾い上げると、鉗子(カンシ)立てに差し込んだ。 「これからは気を付けろよ」 目すら合わさずそう言って立ち上がる。 「それと、菌をまき散らすな! 風邪をひいたのならマスクをしろ!」 なんだと? 風邪なんかひいていない。単なるくしゃみだ! 人をバイ菌あつかいするんじゃない!  だが反論する暇もなく彼は階段を二段飛ばしで駆け上って行った。 あーっ腹が立つ。セッシを落としたのは私が悪い。でも普通なら相手を気遣う場面だろ! っての。 いったい何様なのよ偉そうに! 一人で毒づくことしかできず、私は階段を駆け下りた。この出会いが私のみならず、人の人生を大きく変えることになろうとは知る由もなく。
/437ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加