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「しっかりしろ! セッシの先が歪んだら、縫合糸が掴めなくなるだろう」
なんだこいつ、私ではなくセッシの心配をしているのか!
苛立つ心をグッと堪える。
「すみません。あとで全部確認しておきます」
彼は残りのセッシを拾い上げると、鉗子立てに差し込んだ。
「これからは気を付けろよ」
目すら合わさずそう言って立ち上がる。
「それと、菌をまき散らすな! 風邪をひいたのならマスクをしろ!」
なんだと? 風邪なんかひいていない。単なるくしゃみだ! 人をバイ菌あつかいするんじゃない!
だが反論する暇もなく彼は階段を二段飛ばしで駆け上って行った。
あーっ腹が立つ。セッシを落としたのは私が悪い。でも普通なら相手を気遣う場面だろ! っての。
いったい何様なのよ偉そうに! 一人で毒づくことしかできず、私は階段を駆け下りた。この出会いが私のみならず、人の人生を大きく変えることになろうとは知る由もなく。
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