プロローグ・ウクライナより愛をこめて

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 シェフチェンコは全身の痛みに耐えながらポケットに右手を突っ込み、周囲に気を配ってからユージンの目をしっかり見直して、声を潜めて早口で懇願する。   「明日の夜0時、聖ソフィア大聖堂へ行き、亡霊議員に会ってくれないか?君に重要な任務を頼みたいんだ」  ユージンはペナルティエリア内でも冷静なシェフチェンコが焦っているのを感じ、「尊敬する貴方の頼みであれば、絶対に任務を果たすとお約束します」と即答し、シェフチェンコは「ありがとう」と手を差し伸べて、何故か握手ではなくユージンの手にビーンズを握らせてグランドへ突き飛ばす。 (霊サプリメント・通称glowing beansと呼ばれる豆類は光の色合いで効力が違い、著名な化学者が発明した霊力アップの健康薬品であったが、現状では闇で製造する裏組織も存在し、純度の低いビーンズが霊界に出回っている。) 『what?』とユージンはアイコンタクトし、空中でシェフチェンコの表情を読み取って、グランドに落下する前に茶色のビーンズを口に放り込み、土の中へ自分の体が染み込むのを感じながら、スタンド上部の空間からロシアの諜報員が出現するのを凝視した。 『KGB……』と心の中で呟き、両眼だけを芝生の隙間に浮上させ、黒い虫で作られた服を着た屈強な亡霊がシェフチェンコに近付くのを偵察する。
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