アルミケースの受け渡し

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 展望デッキの観客をすり抜けて、チェックのスカートにカーディガンを着た福子が歩き出し、ユージンの動きを最後まで見ていた拓郎が走り寄ると、三つ編みの髪を揺らして福子が振り返る。 「ねっ、拓郎。KGBがワープできるって、本当なの?」 「黒虫の服を開発したらしい。通常、霊ゾーンへ入ると霊体は数秒で分裂するからな」 「悔しいけど、亡霊の科学力では負けてるわね」 「いや、このミッションが成功すれば逆転できるさ」  ソビエト連邦の時代からKGBは亡霊の能力を強化するアイテムを開発し、プーチン大統領が誕生したのを機に、両側の世界を支配する活動を繰り広げていた。  拓郎と福子と和也はウクライナの工作員が持ち込むアルミケースを広島空港で受け取り、原爆ドームで行われる亡霊サミットに出展する役割を担っている。  二階国際線出発ロビー・特別待合室[弥山]でアルミケースの受け渡しをする手筈になっているが、念の為に坂本和也が待合室の入口の前に立ち、拓郎と福子は少し離れた位置で重要機器を狙うロシア側の亡霊を警戒する。 「来たわよ」と福子が拓郎の腰を手で叩き、坂本和也とユージンが対面して挨拶を交わし、特別待合室へ侵入するのを確認したが、ロビーの少し離れた空間に切れ目が生じ、黒虫の防護服を着た大柄な女性が現出するのを拓郎が気付き、待合室へ歩き出した福子のお下げを引っ張って呼び止めた。 「福子。敵だ」
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