ユージンの使命感

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 和也は福子に援護を指示した段階でヴィクトルは不意打ちを仕掛けると想定し、黒虫のwave(ウェーブ)(うね)るのを見てアルミケースを両手で持ち、盾にして強烈な打撃を防御した。  しかし分厚いケースを擦り抜けたエネルギー体が胸の前で爆発し、アルミケースを持ったまま壁際まで吹き飛ばされる。 『霊気功か?』  福子はヴィクトルの背後から連打を浴びせながら、霊力を拳から発力したと和也のダメージを心配した。 (中国拳法に気力を拳から外へ発する発勁(はっけい)と云う気功術があり、ヴィクトルは黒虫の分泌物で霊気を集積し、衝撃的なパワーを生み出す能力があった。)  和也は直撃弾ではなかったので助かったが、身動きができずに腕時計をチラッと見て、福子の反撃を期待する。 『あと、1分……』  ヴィクトルは福子の攻撃を無視して、倒れた和也に近寄り、胸ぐらを左手で掴んで宙吊りにし、背中に飛び付いた福子を腕で振り払って床に叩き付け、指先に辛うじてアルミケースをぶら下げる和也に「good job」と労い、霊エネルギーを集積させた右拳を打ち込む。 「和也……」  福子はヴィクトルの背中越しにそれを見て愕然としたが、ユージンが立ち上がって盾となり、ヴィクトルの一撃を胸で受け、磁力を帯びたジャケットを突き破り、霊体が粉々になって空中に飛び散ってゆく。  和也はその光景を仰向け倒れて見上げ、手にビーンズの感触を感じて口に放り込み、幸運にも数少ない茶色のビーンズを呑み、体が透明になってフローリングの床下に溶け込んだ。
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