アルミケースの中身

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アルミケースの中身

 リムジンバスの後部席に拓郎と福子と和也が並んで座り、乗車客は数人いるが生者には見えないので気付かれる事もなく、ごく普通に三名の亡霊が霊界ゾーンに侵入したKGBとアルミケースの中身について話している。 「手応えはあったが……」 「黒服の防護力を失えば、霊界ゾーンを脱げ出せずに消滅する筈だ」 「でも、やり過ぎじゃない?拓郎、また源さんに怒られるよ」  拓郎はドミニカとの格闘で右腕を失っただけでなく、霊界ゾーンへ侵入するヴィクトルに左腕を掴まれ、空間の亀裂に挟まれて手首まで消滅し、満身創痍の状態であったが特に痛がる素振りもなく、阿武源治のいかつい髭面を思い出して苦笑した。 「ところで、それ完成してないのか?」  福子がKGBが去り際に捲し立てた事を質問し、アルミケースを膝の上に置いた和也が溜息をついて答える。 「ああ、詳細は僕も知らされてないけど、KGBが通告したように、未完成で使えないらしい」 「坂本さん。アルミケースを開けてみませんか?ロックは解除したんですよね」  拓郎は開発チームに所属する年上の坂本和也をさん付けで呼んでいるが、福子は気にする事もなく両名を呼び捨てにし、当然の権利だと主張した。
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