プロローグ・ウクライナより愛をこめて

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「キーウまで追って来るとはね?君のボスはよほど僕を気に入ったか、脅威に感じたようだ。それとも単なる臆病者なのか?」 「ふん、ほっといても消滅するだろうが、クレムリンでの情報活動を見過ごす訳にはいかない。それに我々の能力を見せ付ける、いい機会になるだろう」  モスクワからシェフチェンコを追って来たヴィクトルは、特殊なサングラスでシェフチェンコの痕跡を視覚化して追跡し、黒虫の防護服で霊体を強化して霊界ゾーンのジャンプを可能にした。(何匹もの黒蚕の幼虫が糸を吐き出し、ムカデが生地を縫い付け、黒光りする強化服を生成している。)  ヴィクトルは上着の左胸に付けられたKGBの紋章[諜報の剣、防諜の盾が装飾してある。]を指で示し、「ソ連帝国の復活」と宣言して接近すると、一撃でシェフチェンコの胸部を右の拳で突き破り、磁力を帯びた衣服と霊体が粉々になって飛び散るのを冷徹な顔で眺めた。 『nightmare……(悪夢)』  ユージンはシェフチェンコが最後のビーンズを自分に渡した時点で、死を覚悟していたと両眼から芝生に涙を落とし、気配を感じた男がグランドに視線を向けたので、慌てて地中へと潜り込む……。  この時、ヴィクトルは飛び散ったシェフチェンコの霊細胞の塵が衣服に付着し、黒蚕が弱って生地に穴が生じているのに気付き、スタンドの端へ足を踏み出したが、踵を返して出現した霊ゾーンへ戻り消え去った。
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