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「ねえハル君。」
「どうしたのアイちゃん。」
「なんで私ずっとここから出られないの?」
古本屋をクビになった日の夜、布団に入ってすぐに妄想の世界の夢を見始めた。
そして、妄想の世界に入り込んでから現実世界に戻る気配がないのだ。
今回の世界はお城だった。
異世界転生というやつが流行っているが、その中の舞台になりそうな立派な洋風のお城。
その中の一室にハル君と私はいた。
大きなシャンデリアに天蓋付きのダブルベッド。
100着は入りそうなクローゼット。ちなみにクローゼットを開けたらいっぱいのドレスがあった。
執務室にでもおいてありそうなめちゃくちゃ大きい机。
テールコートのハル君。
極めつけは私を着飾るドレス。花嫁さんが着るような純白のプリンセスラインだ。
正直幸せすぎる。ハル君のお嫁さんになったみたいだ。
もうこのまま妄想の世界に取り込まれても良いくらい。
そんなことはありっこないが。
「……アイちゃん、君の左手の薬指見て?」
ハル君の言葉に従って左手の薬指を見ると、プラチナが輝いていた。
え、という動揺は声にならなかった。
ハル君の方に視線を彷徨わせると、ハル君の左手の薬指にもプラチナが存在感を放っていた。
「僕たちは夫婦になったんだよ。」
「何……言ってるの?私は私の生きる世界があるんだよ?家族だって、大学だって、現実世界にある……。」
「ハル君は、私の、妄想の、世界の、人、でしょ?」
「私がつくりだした、ただの、『妄想』でしょ?」
私の言葉を聞いて、ハル君はううん、と首を振った。
「アイちゃん、僕は実在するヒトだよ。」
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