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「まったく策士だねえ、あんたは。」
長と僕しかいないこの部屋、城の玉座の間に妄想の世界の長の声が響く。
「何が『妄想の世界の住人』だい。何が『僕は実在するヒトだよ』だい。ここは現実世界を見下ろす『神の世界』で、あんたは『神』じゃないか。」
その通りだ。現実世界の住人にとっては『神の世界』なんて妄想の産物でしか生まれないだろう。じゃあ『神の世界』は『妄想の世界』と同義だ。
「ハル、あんた、アイって子の『運命書』書き換えたね?」
『運命書』にはその人間の未来が書かれている。その未来通りに物事が運ぶ。恋愛も、生き死にも。神ならば書き換えることも可能。しかも、書き換えたのが僕のように絶対的存在の神ならば罰せられることもない。
「しかも神に嫁ぐってことは、アイは現実世界では……。」
長はそこで言い淀んだ。長は変に優しさを発揮するところがある。僕は長に続けて発言した。
「そうですね、存在が消えていますね。」
現実世界でアイちゃんを覚えている者はだれもいない。
そして、念には念を入れてアイちゃん自身の現実世界の記憶も消す。
頑張ってきた課題の記憶も、大好きな本の記憶も。
僕は絶対的存在の神なのだ。
「アイちゃんを知っているのは、愛せるのは、僕だけでいい。」
だって、僕らは、文字通り、神が定めた運命のふたりなのだから。
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