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その1
ある日僕は神社に来ていた。
ここは富士山本宮浅間大社、何のご利益があるかは知らないが、僕は明日、大好きな女の子に告白しようと思っている。
10円玉に軽くキスをすると、それを賽銭箱に投げ入れ、「ぱんぱん」っと手を鳴らした。
「明日は成功しますように!!」
ギュっと目を瞑り、神様に告白の成功をお願いした。
「せいこう……性交…かの?」
そう言って賽銭箱からひょっこりと小さい女の子が顔を出した。
「わわわわっ!何だお前!」
「お前こそ何じゃ!大事な賽銭に接吻しよって。お前の唾液が付いた賽銭などいらぬわ」
彼女が小さな人差し指をクイっと上に向けると、賽銭箱から僕の投げた10円がポイっと戻って来て、僕の手の上に乗った。
「あと、ここは山の神様がいる神社じゃ。恋愛成就は他の神社に行け。“こんびに”では車の給油はできんじゃろ?」
そう言うとシッシッと手を振り、女の子はスタスタ本堂の中に帰って行った。女の子は小学生くらいの子で髪の色はピンク色、黒い着物姿だった。
僕は何が起きたか理解できずポカンと彼女の後ろ姿を見ているままだった。
「まて…お主“やくると”を持っておるな」
「へっ?ヤクルト?」
彼女は本堂の入口でピタっと止まり嬉しそうにこちらを振り向いた。
「その“やくると”でお前の願いを叶えてやらんでもないぞ」
「神様も腸内環境を気にしてるのか?」
「なぜワシが神様だと気付いた」
「いや…何となく」
僕はリュックを漁り、先程よく分からずに行った不動産見学会でもらってきたヤクルトを渡した。
彼女はわぁっと喜び、ヤクルトの蓋に小さい前歯を突き刺してクイクイ飲み出した。
「あの…さっきの約束の件ですが…」
「分かっておふ。しかしお主には一つ問題があるふほぉ…」
ヤクルトを咥えながら、彼女は僕の後ろを指さした。僕はえっ?と後ろを振り向いたが、何も無かった。
「お主、名は何と申す?」
「八神 太郎(やがみ たろう)です」
「ワシは“このは”じゃ、宜しくの」
「さて、お主の後ろには悪い生霊がついておる、お主の事を嫌いで憎くて、今にも殺したいと言っておる」
「えぇえぇ−−!?生霊?マジですか?僕は何にもしてないけど…」
「女じゃな…髪が長くて、容姿端麗、目の下にホクロがあっての、なにやら花の髪飾りをしておる」
それは僕が明日告白しようと思っていた美咲(みさき)だった…
僕は高校で目を合わせた事も、会話した事も無いのに既に嫌われていた…
「ヤダ、キモイと言ってもおる」
「もう良いです辞めてください」
「お前、このまま放っておくと死ぬぞ」
「はい…今死にそうです」
「祓うかの?」
「宇宙の彼方までお願いします」
僕の初恋は終わった。
彼女は何故かヤクルト目当てで僕の家に住み着く事になった。
しかし僕はこの後、彼女と共に千年に一度の大きな神災に巻き込まれるのだった…
その1 終わり
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