怪我

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彼女の名前は、サオリンこと庄崎(しょうざき)咲桜凛(さおり)。アイドルグループ『シュクレ・カヌレ』のセンターで、現在活動休止中のアイドルである。そして、わたしの推しだったアイドルでもあり、わたしの大親友のさおちゃんでもある。小さな体で元気いっぱいに踊る姿、腰まである緩くパーマがかった髪の毛。ドール人形みたいに可愛らしい彼女の姿はとても人気があった。 さおちゃんは歌はあんまり得意じゃなかった。アイドルになる前、中学時代によく行ったカラオケではわたしの方が点数は高かったし、音楽の授業ではさおちゃんよりもわたしの方が成績は良かった。それでも、アイドルデビューをしてからはボイストレーニングを頑張り続けていた。今ではあの頃よりも比べ物にならないくらいうまくなっているのは、彼女の努力の証なのだと思う(ファンの間では下手だけど一生懸命みたいな評判だけど、それはそれでとても愛されていて微笑ましかった)。 わたしは彼女のことを、これでもかってくらいよく知っている。彼女がアイドルになってからのファンの人たちよりも、ずっと年季の入ったファンなのだから。……違うか、ファンだったのだから、か。 「一晩寝て痛みが引いてくれてたら良いけど……」 結構足に響く痛み方だったから、骨折をしていなければ良いのだけれど。小さくため息をついてから、時々立ち止まりながら家に帰るのだった。
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