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怪我
推しに押された。
近所の公園の辺りを走っている最中に、さおちゃんに背中をグッと押されてしまって、「わっ」と大きな声を出した。そのまま階段の上から、バランスを崩してしまう。幸い、10段程の低い階段だったから、3段、2段、最後は5段分を大ジャンプして、雑に段差を飛ばしながらもなんとか着地はできた。
思いっきり両足をついて、不恰好な着地をしてしまったから、少し痛い。顔を歪めながら、階段の上を見ると、不安そうな顔をしたさおちゃんがこちらを見下ろしている。テレビに出ている時とは違って、ノーメイクだし、青褪めた状態の顔ではあるけれど、それでも可愛らしい容姿には違いなかった。
部屋着でノーメイクのままのせいもあり、テレビに出ている時よりもさらに子供っぽい顔つきをした彼女は、黙ったまま、不安そうな表情と悔しそうな表情を混ぜて佇んでいた。屈んで足首をさすりながら、彼女に問う。
「どういうつもり?」
「違っ……、そんなつもりじゃ……。きょ、杏子ちゃんが悪いんだから!」
「さおちゃんのためを思って……」
「杏子ちゃん……」
さおちゃんは、ただ悲しそうにわたしの名前を呼んでから、雑に瞳の涙を拭った後、クルリと背を向けて、逃げるようにして走り去っていった。
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