招来術師たちの検分

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招来術師たちの検分

「それでは、本日の調査報告を始めます」  天幕(てんまく)の中、アーシャ湖検分の指揮を執るトビアが口を開いた。  湖からやや離れた位置に設けられた簡素な天幕内には、トビアに呼ばれた数名の術師が集まっていた。開け放たれた入口の側ではグリミアが番をするように佇み、薄く吹く風がつんとした虫除けの香と、野営を張る術師たちの声を運んでくる。  太陽は(イル)トーヴァの山頂にかかり、辺りには次第に宵の気配が漂っていた。灯りを吊った天幕内に椅子はなく、集められた五人の前にはトビアと、アーシャ湖周辺を描いた板だけが置かれていた。  何となく、工房の野外学習を思い起こさせる光景だ。そんなことを思ったエミリオは周りを見回した後で小さく手を上げた。 「あのう、トビア様」 「なんですか、エミリオ?」 「どうして俺までここに? これ、たぶん重要な会議ですよね?」  隣に立つのはサリエート討伐の(かなめ)となるはずだったサザミ、他の三人はアーシャ湖の監視を任されていた術師たちのはずだ。 「俺だけ、ちょっと場違いでは? よかったら炊き出しの手伝いとかに回った方が……」 「いえ、あなたはここにいてください」  トビアは淡々と、しかし有無を言わせない口調で言った。 「他の術師たちに『フィリエルびいき』と見られないためにも、他工房の人材を使っているところは適宜(てきぎ)示さねばなりません。あなたはサザミに次ぐ招来獣(しょうらいじゅう)討伐の実績があるのですから」 「はあ……」  曖昧(あいまい)に頷いたエミリオは、足元で同じように整列していた黒猫に小さく声をかけた。 「……長くなりそうだから探検してきていいぞ」  その言葉にぴくりと耳を動かすと、黒猫は軽やかに(きびす)を返して天幕を後にしていった。羨ましげな顔で黒猫を見送るエミリオに他の術師たちは冷ややかな視線を向け、サザミに至っては呆れを隠すことなく鼻を鳴らした。 「では、本題に入りましょうか」  軽く咳払いをして、トビアが目の前にある板に向き直った。 「日中の捜索の結果、アーシャ湖周辺でいくつかの足跡を発見しました。見つけた場所は三か所、……その内の一つを見つけたのはあなたたちでしたね」 「はい」  サザミとエミリオが揃って答える。サザミが鋭い視線を隣に向ければ、エミリオは心得たように半歩下がって発言を譲った。 「歩幅や足形から見て、足跡の主はおそらく女性。カルバラ側からアーシャ湖に向かって来たものでした。足跡は行きのみで、帰りのものは付近では見つかりませんでした」  サザミが淀みなく説明すると、トビアは頷いて報告を続けた。
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