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「二班が見つけたのは馬よりも小柄な動物の足跡でした。キツネモドキ、オオカミモドキとは明らかに異なる形で、こちらも真っ直ぐにアーシャ湖へと続いていたそうです。四班が見つけたのは南へ向かう帰りの足跡、その持ち主は成人男性と、おそらくは子どもではないかという報告が届いています」
「子ども、ですか?」
「それはまた妙ですな」
サザミたちがざわめく。エミリオは無言のまま目を細めた。
「以上のことから昨日、正体不明の複数名がアーシャ湖へとやってきたのは間違いありません。……監視所から見た当時の様子をもう一度聞かせていただいてよろしいですか?」
トビアが促すと、顔を見合わせた三人の内の一人が代表して口を開いた。
「トーヴァの監視所からアーシャ湖の異変に気づいたのは、一昨日の昼のことです」
白髪混じりの灰色髪を背中で括った三十半ばほどの男だった。ここ数日の騒動で目の下にはくっきりと隈が浮き上がっているが、発する言葉は落ち着きがあり聞き取りやすいものだった。
「サリエートがアーシャ湖から飛び立つと、集まっていた招来獣たちが湖外に向けて攻撃の姿勢を見せました。直後、カルバラ側から大規模な氷結攻撃が発動。おそらくは四精術かと思われます」
四精術、という言葉にサザミが眉を寄せる。術師は続けた。
「ガロア様に第一報を送ったのはこの時です。サリエートは警戒した様子でしたが、ひとまずはアーシャ湖へ戻りました」
「それが一昨日のこと、と」
「はい。翌日──つまり昨日ですが、日の出と共に招来獣たちの様子が再度慌ただしくなりました。湖を覆う靄が一瞬かき消された後、白い竜のようなものがサリエートと交戦。以後、」
「白い竜」
不意に弾かれたような声が上がる。術師たちの視線が一斉にエミリオに向いた。
「ああ、いえ。遮ってしまってすみません」
エミリオが頭を下げると、トビアが改めて術師に目をやった。
「続けてください、カルロ」
「……以後は、アーシャ湖から招来獣の気配が完全に消失しました。そこで伝令用招来獣に第二報の文を託し、トビア様が合流された夕刻まで監視を続けた次第です」
術師が話し終えると、眉間に深いしわを寄せたサザミがトビアに向けて言った。
「トビア様。カルバラからの攻撃というのはもしや、カルア・マグダの四精術師隊では?」
「その可能性も否定できませんが、……どう思いますか?」
トビアが三人の術師たちに意見を求めると、彼らはおそらく否と答えた。
「攻撃の規模はたしかに四精術師隊に相当するものと思われます。しかし、アーシャ湖に数百、いえ数十人であっても進軍があれば気づくはずです。ここに就いた際、北への注意も怠らぬようにとガロア様からも言われておりましたので」
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