招来術師たちの検分

3/4

15人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
「白い竜とやらの行方は?」  サザミが再び問いかける。 「サリエートとの交戦後どうなった? 相打ちにでもなったのか?」 「それが、よく分からないのです」  元々アーシャ湖周辺は氷上の(もや)で視界が遮られている。巻き上がる風に視界が晴れたのも一瞬のこと。白い竜はどこからともなく姿を現し、そして気づいた時には消えていたという。 「我々の認知していない、例えばカルア・マグダで創られた新たな招来獣(しょうらいじゅう)の可能性もあるかと思われます」 「しかし、サリエートと互角、あるいはそれ以上の招来獣をあちらが創ったとなると……」 「ううむ……」  しんと静まり返った空気の中で、若い術師の一人がおそるおそる声を上げた。 「……もしかしたら”救世主”なのでは?」  全員の視線が術師に向いた。  若い術師は重圧に耐えかねたのか、目を伏せると細い声で言う。 「白き獣を連れた、赤き衣の救世主。サリエートと対峙すれば相当の犠牲が出るはずだった我々に被害はなく、アーシャ湖からは全ての招来獣が姿を消した。これは、その、……神の御業(みわざ)なのではないでしょうか?」  何とも言えない沈黙の後で、トビアが小さく息を吐いた。 「まあ、今回の出来事は、人の手で起こったとは考えられないことばかりですからね」 「トビア様」  尖った声を上げたのはサザミだった。 「巷で騒がれている救世主はフェーダの威を借りて世間を(たばか)る偽物でしょう。そんな輩がサリエートを退治したなど、我々が認めるのはいかがなものかと」  強く苛立った口調に若い術師は縮こまる。  トビアは表情を変えない。  二人の術師は無言だが、その顔はサザミよりも若い術師の心情に近いように見えた。アーシャ湖にひしめく招来獣たちを常時監視し、作戦の厳しさを感じていた彼らにとって、今回の一件はまさに奇跡のような出来事だったのだろう。  トビアは何と言って場を収めるのだろうか。エミリオが興味深く成り行きを窺っていると、トビアの濃茶(こいちゃ)の瞳と目が合った。 「エミリオ、あなたの意見は?」 「え?」 「あなたはたしか、ヒースの時に救世主について報告書を出していましたね」  トビアの表情は静かだが、その視線は射るように鋭い。形ばかりの参加かと思っていたが、やはりこのまま静観するだけでは済ませてもらえないらしい。 「そう、ですね……」  エミリオは考えをまとめるように一つゆっくり瞬きをすると、口を開いた。 「ヒースでは、村を訪れた女、男、そして子どもの三人連れが招来獣を討伐したと伝わっていました。俺もその可能性が高いと判断し、トビア様に報告書を提出しました。今回アーシャ湖周辺に残されていた足跡は、それらの内容とほぼ一致します」 「つまり……」 「俺は、同一人物だと考えます」
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加