招来術師たちの検分

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 非難の声を上げかけたサザミをエミリオは小さく制した。 「ただ、一行が救世主を自称したという事実はありません。ヒースの村でも『亡くなった招来術師(しょうらいじゅつし)を弔ってやってほしい』という言伝(ことづて)だけで、何の見返りも求めてませんし」  トビアが苦い表情で息を吐く。 「何か声明の一つでもあれば、目的も分かりそうなものなのですが」 「分かることは二つ。エトラ領にいたことから、おそらくクウェンの人間であること。そして少数でありながら、カルマの四精術師隊(しせいじゅつしたい)に匹敵する戦力を有していることくらいです」  エミリオが口を閉ざすと、トビアが改めて全員を見回した。 「サリエートはその者たちに討伐されたとみて良いでしょう。この事実はカルマよりも先に、我々が報じなければなりません」  トビアの言葉に、サザミを含めた術師たちは渋い表情を見せた。 「しかし、そんな得体の知れない連中がサリエートを討ったなど……」 「軽率に公表するのは危険なのでは?」 「そもそも、俺たちがサリエートを倒さなければ世間の目だって今までと変わらないではないですか」  湧き上がる不満と危惧(きぐ)の中、周囲を見回したエミリオはふと笑みを浮かべて言った。 「──なら、招来術師(おれたち)が倒したことにしちゃえば良いじゃないですか」 「はぁっ!?」  サザミが、いや他の術師たちも驚いた顔でエミリオを見た。 「お前、何言って……」 「だって今、アーシャ湖には俺たちしかいない。俺たちが聖都に報告して、それが世に公表されれば誰も異を唱えられなくなります。……でしょう、トビア様?」  腕を組んだトビアは視線だけでエミリオを促した。エミリオは一歩進み出ると、並ぶ四人の術師に向かって言った。 「もし、俺たちの報告を偽りだと断じる存在(もの)が現れたら。それは単に招来術師を悪く言いたいだけの者か、かのどちらかです。前者であれば構うことはない。後者であるなら願ったりではないですか。ずっと正体を現さなかった救世主が自ら声を上げてくれるのですから。──どう転んでも、招来術師(おれたち)の損になることはないと思いますよ」  そう言って屈託(くったく)なく笑うエミリオを、サザミはぽかんとして見つめた。  普段から毒にも薬にもならないふざけた態度を取ってきた同期が、使えるものは利用しろ、他人の手柄であろうと招来術師(じぶんたち)のものにしてしまえと狡猾ともいえる発言をしたのだ。周りの術師たちも、エミリオが見た目通りの純朴な青年ではないことにようやく気づいたようだった。  トビアは組んでいた腕を解くと、小さく頷いて言った。 「全体へ向けての発表は明日以降に行います。本日はこれで解散としましょう」
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