おくすり様とお姫様

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 本当は、佳代もわかっていたのだ。いじめた者たちを咎めることもせず、佳代の顔が悪いから治して貰えなんて。そう言いだす夏も、結局連中の同類でしかないということに。  醜い顔だから虐めてもいいなんて思っている連中の心こそ、本当に変わるべきものであるということに。 「おぬしの本当の願いを叶える薬なら、用意してやれる。ほれ」  おくすり様が両手を掲げると、小さな薬瓶が出現した。透明の瓶の中に、青く透き通る液体が入っている。 「これを、おぬしの頭から振りかけるといい。すると、おぬしが望んだ通りのことが起きるであろう。ただし、これを使うかどうかは、おぬしの判断に任せる。おぬし自身の手でどうしても世界を変えられないと思った時、おぬしが壊れてしまう前にこの薬を使うといい」 「……そこまで、私のことがわかるんだ」 「わかるとも。おぬしは初めて儂のことを想ってくれた、心優しい娘であるからな。儂も、もっとおぬしのことが知りたい。そう思えば、わかることもたくさんあるというものだ」  その理屈は、わからないではない。佳代はそっとその薬を手に取り、もう一つ気になっていることを尋ねることにした。 「ありがとう。……私、自分の力で、できることがないかを探してみる。大丈夫、父様も母様もお兄ちゃんも私の味方をしてくれるから。そして」  しゃがみこみ、愛らしい神様と目線を合わせて言うのだ。 「貴方と友達になって、貴方を助けるにはどうしたらいい?」 「……何を言う」  少年は笑った。心の底から幸せそうに。 「儂はもう、おぬしの友達であるつもりだぞ。儂の可愛い、最高のお姫様じゃ」  あの優しい神様を助けるには、どうしたらいいのか。醜い顔というだけで虐げてくる連中と、対等に渡り合うにはどうすればいいのか。  薬を家に持ち帰った佳代はまだ、その薬を棚の奥にしまったまま考え続けているのだ。いざとなれば、神様が助けてくれる。その保証があるだけで、どれほど心が軽くなったか知れない。  まだ幼い自分だけれど、だからこそたっぷり時間はある。  村の図書館で借りて来た本を広げて、佳代はまずこの村の歴史から調べてみようと思ったのだ。あの優しい神様のこと、そして本当の意味で人の心を癒す薬のことを。 ――大丈夫。私は、独りぼっちなんかじゃない。
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