おくすり様とお姫様

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 洞窟の中は蒸し暑い外と違って、日が当たらないせいもあってかひんやりと涼しい。その上、あちこち松明が灯っていることもあってそこまで暗くはない。そして、足元は舗装されてこそいなかったものの、雑草がない分山道よりずっと歩きやすくなっていた。 ――おくすり様って、どんな姿をしてらっしゃるんだろう。獣だろうか、鳥だろうか。それとも、美しい女の人とか、ご老人の姿なんだろうか。  そんなことを思いながら、ゆるゆると進んでいくこと数分。気づけば、佳代は青白い光の灯る、お社の前に到着していたのだった。 「お、おくすり様……」  おっかなびっくり、佳代は言葉を口にする。 「おくすり様、おくすり様。この願いを、聞き届けてください……」  するとどうだろう、空気が一気に冷たくなったような気がしたのだ。ふう、と誰かがため息をついたような音がした。え、と思ったその直後、すとん、と佳代の目の前――即ちお社の前に、人影が飛び降りてきたのである。 「誰じゃ、儂を呼ぶのは。……というか、けったいな娘じゃの。前髪が長すぎて、それで顔が見えとるんか?」  まるで老人のような喋り方だったが、声は幼い少年のものだった。十一歳の佳代より、さらに年下の男の子のそれ。  そして、実際現れた人影もとても小さく、小学校に上がったか上がってないかくらいの子供の姿をしていたのだった。 「貴方が……おくすり様なの?」  青い髪を後ろで一つに結び、紺色の生地にきらきら星をちりばめたような着物を着ている。教科書で見た、平安時代とかの貴族様、の服装に似ているかもしれない。顔立ちは、今まで佳代が見たことがないほど白く整っていて、眼は宝石のように青く透き通っているのだった。 「いかにも。儂が、村の者達にそのように呼ばれる神よ」  ふふん、と少年は小さな胸を逸らせて言ったのだった。 「さて、呼ばれたからには儂は、そなたの願いを叶えてやらねばならんのだがの。そなた、お願いしたいことはなんなのじゃ?言うてみよ」 「あ、えっと、その……」  夏に言われた通り、ここで自分はお願い事を言わなければいけないはずだった。しかし、おくすり様の台詞がどうにも気にかかる。気になったことは、何でもその場で尋ねなければ気が済まない質だった。なので。
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