おくすり様とお姫様

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「その前に、お尋ねしても?……おくすり様は、どうして村の人のお願い事を叶えてくれるの?」 「ふむ?どうして、とは?」 「その、私は今まで一度もこのお社に来たことがなくて。……それは、なんだか、対等じゃないというか、平等じゃないような気がしてたから。だって、私達村人はおくすり様にどんな怪我でも治して貰えるのに、おくすり様に何かしてあげるわけじゃないんでしょ?それって、本当にいいのかなあって。なんだかその……村の人達が、神様を搾取してるみたいでいやだなって」  ひょっとして、こんな言い方をしたら機嫌を損ねてしまうのではないか。話してからそう思ったが――おくすり様は、眼をまんまるにしただけで、怒る気配は微塵もないのだった。 「……そのようなことを訊かれたのは、初めてであるぞ。誰も彼も、自分の願いを叶えて貰うことのみを考えていたようだからな」  ふむ、と顎に手を当て、その場にあぐらを掻くおくすり様。 「ずーっとずーっと昔のことよな。儂は、おぬしらの村に住む童であった。ある日、あの村を恐ろしい疫病が襲ったのじゃ。その疫病を鎮めるためには、万病に効く薬を用意せねばならなかった。その薬を作るためには、薬の神様の力が必要じゃった」 「薬の神様?それって、貴方のこと?」 「そうじゃ。誰かに薬の神様になってもらって、神様が作る薬で皆を救わねばということになってのう。……村で一番身分が低い家の次男であった儂が、その役目を担うことになった。この社のこの下に……生きたまま埋められてのう」 「!」  とんとん、と彼は地面を叩く。私は絶句して、彼の座っている場所を見つめた。  確かに、神様というのは大昔に生贄にされた人、である場合もあると聞いたことがある。けれど、まさかおくすり様がそうだったなんて思わなかった。しかも、この姿。彼はきっと七歳くらいの子供なのに、生き埋めにされ、苦しい死に方をしたということではないか。 「それ、酷すぎるよ……!」  思わず声に出していた。 「だって、それで村の人達は病から救われたのかもしれないけど!でも、貴方はここでずっとずっと、無条件でみんなのお願いを叶えなければいけない存在になってしまったってわけでしょ?天国に行くこともできないのでしょ?そんなのつらすぎる!」 「……おぬしは、優しい子じゃの」  少年は目を細めて、嬉しそうに笑った。
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