おくすり様とお姫様

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「確かに、儂は皆の願いを叶え続けなければいけない。そうしなければ、神として存在することができぬ身であるからの。……じゃが、儂にも心がないわけではない。本当に救うべき者が誰なのかは、選ぶことができる身よ」 「救うべき者?」 「左様。例えば、さきほどおぬしが一緒にいたお夏。あの娘の祖母はとても心が清らかな者であった。ゆえに、儂も望んで助けたのじゃ。じゃが……なあ、おぬしよ。おぬしは、儂に何を願おうとした?本当は、願いたいことなど何もなかったのではないか?」 「……そんなことまでわかるの?」 「おう。儂は神であるからな」 「…………」  この神様には、きっと嘘などつけないのだろう。佳代は意を決して、自分の額に手を当てた。  そして、長い前髪を持ち上げる。そこにあったものは。 「……私、みんなに嫌われてるの」  小さくて腫れぼったい瞼。潰れた鼻。太った頬に、分厚い唇。  鏡で見るのも嫌になるような、この村で一番の――醜女(しこめ)の顔。学校でも、不細工だ、不細工だと何度笑われたかしれない。自分だって望んで、こんな顔に生まれたわけではないというのに。 「クラスで一番人気者の夏ちゃんが言ったの。……この顔を“治して”貰ったらきっとみんなから愛されるようになるって。虐められなくなるって。だから、おくすり様に治してもらいなさいって」 「その夏というのは、おぬしの友達か?」 「……きっと、夏ちゃんはそう思ってないと思う。私も……よくわかんない。夏ちゃんと友達になったらもう嫌われなくなるし、夏ちゃんに本気で嫌われちゃったら学校で居場所がないから……だから言う通りにしなくちゃと思って来たけど」 「その子はおぬしの友達でもなんでもない。おぬしも本当はわかっておるのであろう?」  おくすり様は真っすぐに佳代を見つめて、きっぱりと言い放ったのだった。 「本当に治されるべきはおぬしの顔ではなく、おぬしの顔だけを見て心まで醜いと決めつけ、虐げる愚かな者達の心であろう?……そのような醜い心の持ち主たちが相手では、例えおぬしが絶世の美女になったところで根本的なことは何も変わらんぞ。理由をつけて、また別の虐めが始まることもあり得るではないか」  まったくもって、その通りだった。佳代は唇を噛みしめて俯く。
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