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おくすり様とお姫様
昔々。ある小さな村の山に、“おくすり様”と呼ばれる神様が住んでいた。
おくすり様、はその名の通り薬の神様である。信心深い村人たちがお願い事をすると、不思議な薬の力でどんな病気やケガもたちどころに治してくれるというのだ。
お佳代は、その山に登ったことがないし、おくすり様の姿を見たこともない。
村の神社や神棚でのお参りを欠かせたことはないが、実際に山に登って、神様がいるという洞窟まで足を運んだことはなかった。理由は簡単、紗世もその家族も体が丈夫で、大きな怪我も病気もまったくしたことがなかったからだ。おくすり様、に頼らなければいけないことなど何もなかったのである。
また、心のどこかでおくすり様の力を信じていなかったというのもあるかもしれない。
――どんな怪我も病気も治せる薬なんて、いくら神様でも作れるのかな。そんなものがあるならば、お医者さんなんていらなくなっちゃうのに。
村の人がお祈りをするだけ。何か、対価となるものを支払うわけでもない。だったら、助けたら助けただけ、神様が損をしてしまうだけではないのか。なんだか、それもそれで申し訳ないような気がしてしまう。
そんなわけだから、佳代は多分、自分は一生おくすり様に頼ることはないだろうと思っていたのだが――。
「佳代ちゃん、あたしやっぱり思うのよ」
同じ小学校に通うお夏が、佳代に言ったのだった。
「佳代ちゃんは、おくすり様に頼るべき!治してもらいましょうよ。きっとおくすり様は佳代ちゃんを助けてくださるわ」
「で、でも……」
「いいから、いいから。道が分からないんでしょう?あたしが連れていってあげる」
それは、もうすぐ夏休みになろうかという、夏の暑い日のこと。強引に腕をひっぱる夏に逆らうことができず、佳代は渋々頷くことになったのだった。
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