犬、魔術師様の番犬になる

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○  ハスケル様は、おれが仔犬のころ、王様とお妃様のところに出入していた<魔術師>だ。仕事は、王様に魔術を教えること。魔術顧問だったんだ。他にも、護符で城の守りを強化したり、魔術で兵士の傷を癒したり、ときには闘っている相手の首を自ら狙いに行ったりと、縦横無尽の活躍で王様とお妃様を助けていた。この国がここまで豊かに、大きくなったのはハスケル様のおかげだと、王様はおれに話してくれた。たぶん、ハスケル様は王様とお妃様をとても敬愛していたんだと思う。  おれが仔犬のころから、ハスケル様は今と同じ、青年の姿だった。歳のころは二十八歳くらい。今も二十八歳の姿のままだ。  それは、ハスケル様が不老不死の魔術を会得しているから。  ハスケル様はそのせいで、この国の――いや、世界でいちばんの魔術師だとの噂だ。ハスケル様以外に不老不死の魔術を会得した人間はいない。  噂では、ハスケル様は四十年前に自らの師匠を殺し、師匠が完成間近まで漕ぎつけていた不老不死の魔術を盗んで、我が物にしたとか――だから、ハスケル様は敵が多い。それはもう、多い。  師匠のルイジ・ヤーロムさんは相当な実力者で信奉者も多かった。ハスケル様は、ヤーロムさんの信奉者に恨まれて、今も物理的攻撃から精神的攻撃に至るまで、種々の膨大な攻撃を受けているという。  それに、不老不死の魔術を我が物にしたいという人間たちも、ハスケル様を狙っていた。ハスケル様を殺すことはできないけれど、捕らえて頭蓋を割り、脳髄に刻まれた不老不死の<魔術言語>を奪うつもりなんだ。  実際、つい三週間前に、ハスケル様は敵の魔手に堕ちそうになっていたと噂で聞いた。ハスケル様の噂はこれまで何度も聞いていたけれど、すべてが「最強の魔術師」にふさわしい噂で、弱みを見せたという話を聞いたことがなかった。  だからハスケル様が窮地に立たされていると知ったおれは、傭兵として自分の力が役に立つんじゃないかと、ハスケル様の元に駆けつけたんだ。  ハスケル様の役に立ちたい。だって、ハスケル様は、おれに優しくしてくれたから。
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