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少年はしばらく黙っていたが、ようやく口を開けた。
「善治郎…」
ポツリと言った。
拾えるか、拾えないかくらいの小さな声だ。
「…それが君の名前?」
『メガネ』が聞くと、少年は首を横に振った。
「…僕が、好きなアニメの主人公…」
『住職』と『はやぶさ』はポカンとしていたが、『ロング』は『善治郎』に優しい眼差しを向けた。
「カッコいい名前ね」
投げられたように置かれた古タイヤや、サビが酷い青いベンチに座ったりして、彼らはお互いに近況報告をした。相変わらず雨は止まないが、彼らは気にしない。
「ロングさん、同居人とは仲良くやれそうですか?」
『メガネ』が聞くと『ロング』は軽く握った拳を口元に置き「うーん」と悩んだ。
「最初はさ、うるさいやつが入ってきたなと思って、正直嫌だったのよ。…でもさ、しばらく暮らしてると、アイツも可哀想に見えてきて…」
「可哀想?」
『はやぶさ』が尋ねる。
「私が何もしなければ、あの部屋で不可思議なことはなーんも起きないわけ。だから、アイツの配信を見てる人は、つまんないなって離れていくみたい」
「世知辛い世の中だねぇ」
『住職』が合いの手を入れる。
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