ある日の深夜2時

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ひとまず前置きをすると、コホンと咳払いをした。 「当時、半同棲していた彼氏がいてね、そいつが…二股かけてたんだよね。それを知ってさ、私、怒り狂っちゃって」 『ロング』は膝の上で頬杖をつき、遠い目をした。 「その時、職場も忙しくて不眠症になってたから…その…睡眠薬が手元にあったんだよね。彼の浮気も発覚して、いつもよりたくさんのお酒を飲んで…薬も、飲んじゃった」 慰めるように『住職』がそっと『ロング』の肩に手を置いた。ロングが住職を見て、力なさげに微笑む。 「死んだ後、悔しくって、どうにかしてやろうって思って、彼の様子を伺いに行ったの。…そしたらさ、彼…浮気相手と一緒にいた」 後ろの方で、風もないのに散乱した空き缶や何かのプラスチックの容器がカタカタと音を鳴らした。 だが、すぐに止まった。 「呪ってやりたかった…でもね、その女のお腹の中には、赤ちゃんがいたの」 ポツリと『ロング』は言った。 「ずるいよね。なんか、意気消沈しちゃった。その女の幸せそうな顔を、なぜだか自分に重ねちゃったんだよ」 『善治郎』もみんなも黙って聞いた。 『ロング』は深く息を吐くと、明るく大きな声を出した。 「…はい! 私の話はおしま〜い!」 少し慌てるように今度は『住職』が話し始めた。 「俺はねぇ、暑い夏に…ちょうど今くらいの時期かな、墓の草むしりしててね。間もなくお盆だったから、掃除してたんだよ。そしたらさ、熱中症になっちまって。お墓に一人で来てたもんで、周りには、助けてくれる人なんていなくてね。んで…そのままよ」 暑さも今や感じないのに、習慣からか、首のタオルで顔を拭いた。 「熱中症は怖いですからね…。あれ、住職ってご家族は今…」 『メガネ』が尋ねた。
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