ある日の深夜2時

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いつの間にか雨が止んでいた。 あと数時間で夜が明ける。 「僕が死んだ後、途中になってしまった仕事が気になって、職場を見に行きました。机には百合の花が飾られていたけど、僕の話題はタブーかのように誰も話しませんでした」 『メガネ』の口にキュッと力が入った。 「家族が荷物をまとめて引き上げると、翌日からは百合の花は片付けられ、何事もなかったように仕事も引き継ぎがすんなり行われていました。引き継いだ人は、悲しむどころか不満そうにしてました…」 「うーん…」と『住職』が小さく唸った。 「変な使命感に駆られて、必死に仕事をしていたけれど、大事にすべきは自分自身だった。仕事において、僕の代わりはすぐに見つかるのだから…。死んでしまっては、もったいなかった」 『はやぶさ』が小刻みに頷く。 『ロング』は悲しそうに真っすぐメガネを見つめていた。 「誰かに必要とされたくて、野良猫を可愛がりたいんですかね。猫を助けてるつもりが…慰めてもらっているのは、きっと僕なんだろうな」 チラリと『メガネ』が隣りの『善治郎』を見た。 彼の頬に涙の跡が見えた。 「善治郎くん…君も話すかい? 無理はしなくていいよ」 優しく語りかけると『善治郎』は濡れた頬を素早く手で拭った。
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