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 憧れだった会社に入社して、初めて大きな企画を任せてもらえて、好きな人ができて、その人が彼氏になって、そんな喜ばしいことを報告する友人もいて……。    すべてが順風満帆だった。それなのに。    どこから私の人生は狂っちゃったんだっけ?  自室のひんやりとしたフローリングに横たわりながら、ぐるぐると考える。  点と点が結ばれてひとつの線をなした時、私の頭に浮かんできたのは「ドッペルゲンガー」という言葉だった。 ――― 3カ月前 ――― [かなぴよさん、はじめまして!  あたしの名前は、ふじ子って言います♡  佳奈さんとお話が合いそうだなって思って、連絡しちゃいました♡♡  よかったらお話ししましょう]  スマホがぴこんっ、と音を立てた。  特にやることもないので、ふと画面に目をやれば、それはインスクグラムからの通知だった。 「1件のメッセージが来ています」とのことだったから、とりあえずアプリを開いてみたら、中身は冒頭のような文面だった。 「うわ、頭悪そう」  思わず本音がこぼれる。 ハートとびっくりマークで埋め尽くされた、甘ったるい雰囲気あふれる中身のないメッセージ。送り主がアイコンに設定している、いかにも健康に悪そうな虹色の断面をしたケーキの画像。  28歳、独身、会社員としてのふだんの“西山 佳奈”のプライベートを投稿するアカウントとは別に、趣味のカフェ巡りの様子を投稿したくて始めたこちらのインスクグラムアカウントには、時折このように変なメッセージが来ることがある。  そのたいていは、個人情報を抜き取るサイトにアクセスさせるための詐欺ものか、「あなたのアカウントをフォローするから、かわりに私のアカウントも相互フォローしてくれ」というお願いメッセージかだ。 「さてさて、この“ふじ子”って人は、どっちなのかねぇ」 [ふじ子さん、初めまして。 メッセージありがとうございます。 嬉しいです]  やることも特にないので、甘ったるいメッセージの送り主へとびきりそっけない返信を送る。おもしろ半分で送ったために、送信完了と同時に“ふじ子”への興味はすっと消え失せ、その日は大きな仕事をひとつ終わらせたこともあって、そのまますぐに眠りについた。
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