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「……。」
扉の前からの気配はもう無いような気がした。
汗だくな金髪の人と静かに目を合わせる。
「……行ったっぽい、よね?」
「は、はい……。多分……。」
そんな会話をしながらも声は自然とひそひそと内緒話をするみたいになった。
数秒の沈黙。
金髪の人が俺をまじまじと見つめて来て、俺は漸くそこで〝噛まれた〟傷のことを思い出した。
「あ……。」
慌ててパーカーのフードを被って、首を隠す。
でも、もうバレてる、かも……。
追い出されたら俺……、今度こそ亜貴に食われる……。
顔から血の気がサァ、と引いていく感覚。
「あの……」
俺の事を見る金髪の人の顔がみるみるうちに赤くなっていった。
バッと立ち上がり、俺を見下ろす。
「君さ……」
後退りをしながら頬に汗を滲ませていく様子でもうその疑惑は確信に変わった。
ーー噛まれたの、バレてる……!
どうしよう、どうしよう、どうしよう……!!
「あっ、で、でも、まだ……そんな、人を食べたいとか……」
俺が慌てて言い訳をしようとしたところで、金髪の人は部屋の奥へと逃げていってしまった。
完全にゾンビ扱いされてる……!
バタバタと足音が遠ざかっていって、俺はただただ立ち尽くしてしまう。
ーーどうしよう。
人として出て行かなきゃいけない、よな……。折角助けてくれた人をゾンビになって襲っちゃったりなんかしたら死んでも死にきれないだろうし。
でも、まだ外にはゾンビになった亜貴が……。
パニックになっている頭を抱えてただその場に立っていると、慌ただしい足音が再び此方に向かってきているのが分かった。
ぶ、武器でも持ってきたのか……!?
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