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「大丈夫だよ、大丈夫……。」
暫く泣いているとしゃっくりが込み上げて来て、それが苦しそうに見えたのか橘さんは優しく俺の体を包み込んだ。
背中をとん、とん、と優しく撫でられる。
「ふ、ぅ……」
撫でてくれる手が心地良くてゆっくりと深呼吸をすると、甘い香りが鼻を擽ってきた。
なんというか……〝チャラい〟匂い。
苦手な香水の匂いだけど、今はそれでも良いと思った。
誰かの温もりと優しさが欲しい。
また、あの温かさに触れたい。
「幽ちゃん……。会ったばっかりの男なんて信用できないと思うけどさ、俺に出来ることがあれば何でも言ってよ。」
「ありがとう、ございます……。」
橘さんの声はほんのりと弱々しいけど芯には力強さもあって、寄りかかりたくなる。
きっと俺が女の子だと思ってるからこんな風に優しくしてくれるんだろうけど……。
今は、それでも良い。
1人であの部屋に戻るのは嫌だ……。
誰かと居たい。
……その為には〝女の子〟でいないと。
大丈夫、慣れてる。
「橘、さん……。一晩だけ此処に居てもいいですか……?」
俺よりも大分身長のある橘さんの顔を潤んだ視界で見上げれば、少しだけ橘さんの肩が跳ねた。
「あ、ああ、うん!もちろん!一晩と言わず何泊でも……って言いたいところなんだけど、明日、弟と合流する予定があるからマジで一晩にはなっちゃうんだけど……。」
「弟さんがいるんですか?」
「うん、一個下のクッソ生意気な弟がね。学校に食料受け取りに行ってるんだけど、ちょっと厄介な事になってるみたいでさ。」
俺と同い年……。
橘さんに似てチャラ男なのかな、弟も。
ーー……一晩、か。
自分から言い出した癖に少し寂しい気持ちになった。
「おれ……、いや、私もついてって良い、ですか?」
「え?」
溜まってばかりの涙を自分の手で拭い、再び真っ直ぐに橘さんを見つめる。
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