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「恋人、いなくなっちゃったし……。何より心細いんで……。迷惑じゃなかったら……。」
もしかしたら、〝人間〟でいられる最後の時間かもしれないし。
そんな時まで1人だなんて嫌だ。
……なんて、自己中過ぎるか。
「……。」
自嘲気味な気持ちと、罪悪感と、寂しさが頭の中でぐちゃぐちゃと混ざり合っている。
橘さんも困った様子で眉毛を下げていた。
ーー俺はこういう時、どうすれば良いか知っている。
「…………だめ、ですか?」
相手の服の裾を掴んで、潤んだ瞳で見上げて、掠れた声を出し、首を傾げて、終了。
「っ……!……わ、分かったよ、でも朝危なさそうだったら、一旦幽ちゃんは此処に残ってもらうから。」
技が効いた様子の人の反応で安心した。
どうやら橘さんは見た目とは裏腹に紳士的な人らしい。それが女の子に対してだけか、そうじゃないのかは分からないけど。
俺をソファへと座らせて、涙を拭う為の箱ティッシュを傍に置いてくれた。
「……家族は?」
「家族は……もうとっくに感染しちゃいました。父と、母だけなんですけど。」
「そっか……。じゃあ、恋人さんが感染したのは余計に辛いね。」
さりげなく身寄りを確認してくれようとしたんだろうけど、さらに部屋の雰囲気が重くなる。
橘さんも次の言葉に悩んだのか、キッチンの方へ向かうべく俺に背中を向けた。
……両親なんて、亜貴に比べたら。
「なにか飲む?この前弟が珍しい飲み物ゲットしてきてたんだよね。エナドリ。」
「えなどり……?」
「え!幽ちゃんエナドリ知らないの?」
恐らく気を遣ってくれた質問だったんだろうけど、俺の返事には心底驚いた様子で振り返ってきた。
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