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「俺は、橘 恭典!高校三年生なんだけど、歳近かったりする?」
たちばな……。
どこかで聞いた事ある様な苗字。
でも、ありがちっちゃありがちか。
鈴木とか佐藤みたいに沢山いる苗字ではないけど……。
「あ、高校二年生なんで近めです」
「おー!学年一つ違いなんだ!仲良くしてよ。名前は?」
「調月 幽です。」
「調月!珍しい苗字!幽ちゃんっていうんだ。よろしく!」
ちゃん……。
やっぱりこの人、俺の事女だと思ってる……。
橘さんはにこにこと人懐こい笑みを浮かべながら俺の手を取った。
「幽ちゃんマジでタイプ!人助けってしてみるもんだな。黒髪美少女って今の時代中々巡り会えなくてさぁ。」
陽気な声を弾ませて、橘さんはキラキラとした瞳で俺の顔を見てくる。
いかにも女好きっぽい見た目してるもんなぁ……、この人。
いや、俺は男なんだけど……。
「つか、怪我とかない?平気?」
「だ、大丈夫です!」
指摘をする前に橘さんはどんどん話を振ってくる。
俺は少しぎくりとして、堪らず橘さんから目を逸らした。
……首の傷はじくじくと痛い。
「良かった……。ラジオなんかでも言われてるけど、ここ最近感染者増えてきてるよな。シェルターっていうくらいだから安心できると思ってたのに。」
「そう、なんですか?ここに来てからは暫く見てなかったから、政府がどうにかしてくれたのかなって思ってたんですけど……。」
「え!最近ここら辺でも何人かゾンビになった奴出て、住人達でなんとか駆除してたの知らない?」
「そ、そんな事あったんですか!?」
言われてみたら食料の受け取りなんかは全部亜貴が行ってくれてたし、俺って全然部屋から出てなかったんだな……。
ラジオとかも俺が不安にならない様にと亜貴が1人で聴く様にしてくれてた。
そういえば亜貴と付き合い始めてからは、城から出たことがないお姫様みたいな状態だったな……。
優しい亜貴に甘えっぱなしだった。
……だから外の状態なんて知る由もなく、シェルター内はここ1ヶ月平和なものだとばかり。
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