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夏休みが始まって一週間が経ったころ、ナオヤが訪ねて来た。
「うわ、あんた日焼けしすぎ。ひくんだけど」
「だって夏休みだしー。それより助けてよ、NIMBUSに接続できないんだよ!」
近所に住むナオヤは、何かとキホを頼ってくる。キホはしかたなくナオヤを居間に通し、タブレットを受け取り、ログイン画面に接続し、忘れたというパスワードの再発行手続きをしてやった。
「助かったー! なあ、せっかくだからゲームでもしようぜ」
「課題は?」
キホの嫌味にも動じず、ナオヤはいそいそと端末を出した。いつもなら追い返すところだが、キホも自分の端末を用意する。
「じゃあ、あたしのゲームでいい? 招待するね」
「おう。……あれ? プレイヤーが三人いる」
『私ですよ、ナオヤさん』
テーブル上のネットワークスピーカーが声を発し、ナオヤは飛び上がった。
「スピーカーがしゃべった!」
「そこ、驚く? 今のはうちのNIMBUSだよ」
『ニムと呼んでください』
「へえー。AIがゲームすんの? どうやったのさ」
驚くナオヤに、キホは気分を良くした。
「いろいろ工夫したんだから。まず、バックエンドは一般に公開されてるOSS(オープンソースソフトウェア)を改造して組み立てたの。ニムのコマンドを、コントローラー出力に変換するためにね。ニムがゲームのルールを理解できるように、再学習もさせた。制約と報酬の計算式は……」
「あ、もういいわ」
熱の入った説明は、あっさり遮られた。
「ちょっと、まだ途中なんだけど!」
「おれ、わかんねえもん。お父さんに聞いてもらえよ」
「パパは忙しいの。今日も出張だし……もういい、さっさとやろ」
キホは、初心者向けの陣取りゲームを選んだ。自分のコマを動かし、他のプレイヤーと交戦、交渉しながら領土を拡大していくというものだ。
「よっしゃー、ぜってえ勝つ!」と意気込むナオヤだったが、その威勢は最初だけだった。
三十分後。
「なんかつまんない。おれ、帰るわー」
そそくさと出ていくナオヤを尻目に、キホはゲームのログを確認した。二回の対戦は、ほぼ同じ結果を示している。キホの青軍が大勢となり、ニムの黄軍は健闘しているが、ナオヤの赤軍はケチャップのシミほどの領土しかなかった。
「あいつにはまだ早かったか……。さっきのゲーム、ニムはどうだった?」
『満足です』
ニムは平坦な声で答えた。
『新しい行動パターンを学習することができました。これは、行動のバリエーションを増やすために有効です』
「あいつ、遭遇のたびに『交戦』を選んでたけど。あんなのが役に立つの?」
『もちろんです』
ニムの返答に、キホは腕を組んだ。
「ふーん、新しいパターンか……。もっと学習量を増やすために、できることはあるかな?」
『あります。外部ネットワークで他のプレイヤーとゲームすることです』
「一般の人にまじるってこと? だめだよ、それってbotじゃん!」
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