ゲームプレイヤーたち

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>>> メッセージを入力してください。 [kiho] あなたは誰? >>> kihoさんこんにちは! 私はNIMBUS、株式会社クラシ・ロボティクス&ソリューションズが開発した教育用対話型AIサービスです。 詳しい情報はこちらから ->  ……  テキストどおりの確認を終えると、キホは顔を上げて教室内を見渡した。プログラミング実習が始まってから五分。周りの子どもたちはまだテキストと作業用モニタを見比べて、困惑の表情を浮かべている状態だ。 「キホー、これどうすんの?」  隣席のナオヤが声をかけてくる。そのモニタは、ログイン時のままだった。 「まず、このアイコンをクリックして。……で、ソフトが立ち上がったら、テキストどおりにコードを入力するの。ここからここまで」 「英語? まじかよー!」  ナオヤは大げさに叫び、おぼつかない手つきでキーを打ちはじめた。 「キホ、赤い文字が出た! エローだって」 「ERROR(エラー)でしょ、ばっかじゃないの? 二行目のコマンド、つづりが間違ってる。やり直し」  キホはため息をついた。ここにいる全員、生まれた時から小四の今に至るまで、便利なデジタル製品を使わなかった日はないはずだ。それが、ごく初歩的なコーディングを相手にこの体たらくとは……。ワンタップで結果が出てくるアプリに慣れすぎて、裏で実行されている処理については考えたこともないのだろう。 「もー! 何度やってもエラーになる!」 「慌てすぎでしょ。ていうか、何でテキストのコードをコピペしないの?」 「できないんだよー、ほら」 「モニタを押すな。マウスかショートカットキーを使うんだよ」  結局、クラスじゅうがソフトウェアの設定と動作確認を終えるのに、二十分ほどかかった。自力でセットアップできたのはキホを含めた四、五人だけらしい。 「みんな、準備はできましたね?」  先生は疲労困憊の顔つきで言った。 「最初に説明したとおり、NIMBUS(ニムバス)は利用者とのやりとりを学習するAIです。その機能を使い、みんなには夏休みの課題として、NIMBUSのカスタマイズをしてもらいます」  エーッと声が上がるがお約束だ。先生はそのまま続けた。 「まずはNIMBUSと会話すること。その内容を記録して、最終的にNIMBUSにどのような変化が現れたかレポートを作ってください」 「おれ、何を言っても『うんこ』って返すAIを作ろーっと」  得意顔のナオヤを、キホは軽蔑のまなざしで見た。その後すぐにチャイムが鳴り、プログラミングの授業は平和のままに終了した。
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