夏夜

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 終業式のあとのホームルームが終わり、みんなが夏休みの予定についてあれこれと計画を立てる中、私はさっさと鞄をひっつかんで学校を飛び出した。  やっと夏休みに入った。その高揚感は胸の中を一瞬だけ通り抜けて、今はどこへやら。さすがは自称・進学校、私にとりたてて休み中の予定がないからと、その埋め合わせと言わんばかりにたんまりと宿題が出してくださりやがったのだ。ああ、うんざりする。高校生たるもの、夏に走らせるべきはシャープペンじゃなくて自転車だろ。いや、別に自分の足でもいいけど。  帰り道、(せみ)の声が私の孤独さを(はや)し立てるようでまた腹が立った。別に友達がいないわけじゃないし、いなくなったというわけでもない。  私からいなくなったのは、つい一週間前に別れた彼氏ただひとりなので、人数で言えばたいした問題じゃない。  ただ、比重の問題だった。私がセパレートドリンクでいうところのシロップくらい重かったから、それより軽かったソーダ水の彼は気が抜けてしまったのかもしれない。それくらい、私にとって彼は大きな存在だった。初めてできた彼氏だったし。  でもさ、あんたから告白してきたときも私言ったじゃん。恋人とはできるだけ連絡取りたいしデートもしたいってさ。ここまでとは思わなかったとか考えて別れを切り出してきたのかもしれないけど、それってあんたがもっと大人になったとき困るんじゃないのかな。まだ高校生の今だからよかったようなものを。まあ私にとっては何ひとつとしてよくないんだけどさ。  嗚呼、まったく、傷心だよ傷心。そう思えば、大量に出された古典のプリントも数学のワークも、私の心の傷にあてがって絆創膏代わりにでもしろ……っていう心配りだったのかもな。でもこんなにたくさんは要らないんだよ。そもそも普通の怪我だって、こんなに大量の絆創膏貼るくらいならさっさと救急車を呼べよって怒られると思うんだけど。  彼氏と行くはずだった、週末に控える花火大会のポスターの前を通り過ぎた。私の家は高台にあるので、別に花火なんて会場まで行かなくたって見えるんだけど、そこは風情っていうか、雰囲気ってものがあるじゃないか。だから二人で会場に足を運んで肩を並べて花火を観て……などと妄想していたことが、今や遠い昔に感じる。日本史の教科書に載せてほしいくらいだ。今年の夏はちょっと甘酸っぱくなるだろうと思っていたのに、もう酸っぱすぎて唇が中心にぎゅっと寄ってしまうほどに、大きく味が変わってしまった。花火が打ち上がる度に「はい毎度でーす、炎色反応きました」「早く帰んないと渋滞疲れで余韻なんか秒で吹っ飛ぶのにね」とか風情のないマジレスを飛ばしかねない。    こうなったら、花火大会の日は好きな音楽をイヤホンでガンガン聴きながら宿題をやろう。そうだ、それがいい。実現できるかはさておき、計画を立てるのは得意だ。よくやったよ私……と自分を褒めつつ、家まで続く最後の角を曲がった。
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